こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

シング・ア・ソング! 笑顔を咲かす歌声

男たちは出征した。高級将校の妻は、残された妻たちをまとめる責任を感じる。だが、兵士の妻たちは夫の身を案じても積極的には動かない。物語は、アフガン戦争に派遣された軍人の妻たちが、コーラスを通じて希望を見出していく姿を追う。教養も自制心も自尊心も高い将校の妻は常に身の回りを整えていて、まるで教師のように振舞う。一方で、下士官以下の妻たちは心が弱く下ネタと噂話しかしない。彼女たちの障壁は夫の階級というよりは出身階級の差。将校妻が下士官妻のリーダーと時に対立しながらも少しずつお互いの立場を理解し合っていく過程は、相手の立場を尊重し共感することが人間関係の基本だと教えてくれる。やはり、きちんと教育を受けた者の話し方は、受けてこなかった人々には鼻につくのだ。

英国内の陸軍基地で暮らす大佐の妻・ケイトは、基地内に住む妻たちの活動に顔を出す。妻たちのまとめ役・リサとコーラスを始めることで同意するが、歌や練習方法でことごとく対立する。

ケイト以外、夫が将校の者はいない。上から目線で彼女たちに接するケイトだったが、リサは音楽が得意ではなく、いつしかケイトが練習を仕切っている。学校のような堅苦しさを持ち込むケイトにリサはことごとく反発するが、リサの娘をめぐって2人は少しずつ心を開いていく。それでもリサたちの前では決して弱みを見せまいと意地を張るケイト。大佐の妻としての矜持を守ろうとするケイトのまっすぐに伸びた背筋は、地位には義務が伴うと訴える。戦死した息子が残したクルマを見つめるケイトのまなざしが、彼女の深い悲しみを象徴していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

夫の戦死を知らされたサラをケイトは慰める。愛する者の死は覚悟していても耐えられない。それでも葬儀で死者の魂を合唱で慰めると、ステージで歌う意欲に駆られるコーラス隊。ケイトとリサの間に、お約束のように新たなトラブルが発生したりするが、それもぎりぎり乗り越える。同じ月を時間差で見る歌詞には、離れていても愛し合う夫婦の情景が浮かんだ。

監督     ピーター・カッタネオ
出演     クリスティン・スコット・トーマス/シャロン・ホーガン/グレッグ・ワイズ/ジェイソン・フレミング/エマ・ラウンズ/ギャビー・フレンチ/エイミー・ジェームズ=ケリー/インディア・リア・アマルテイフィオ
ナンバー     94
オススメ度     ★★★*


↓公式サイト↓
https://singasong-movie.jp/