こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ハケンアニメ!

人生に立ち向かう気持ちをアニメにもらった。今度は自分が誰かの心に残る作品を作って見せる。物語は、大手アニメ制作会社に転職した女が初演出作を完成させるまでを描く。大まかな構成を決め、キャラクターに肉付けをしていく。ストーリーや設定の変更はしょっちゅう起こる。そのたびに作画スタッフに声をかけ音声も録りなおさなければならない。進行スケジュールは大幅に遅れ、睡眠時間は削られていく。現場から上がる不満の声をなだめ、プロデューサーのプレッシャーにも耐えなければならない。それでも頑張れるのは、勇気や希望を視聴者に感じてもらいたいから。彼女の仕事に対する姿勢は、投入した熱量が完成度に反映されると訴える。ただ、彼らの情熱の結晶がスマホの小さな画面で消費されていくは哀しかった。せめてTVで見るのが制作者への礼儀だろう。

入社後7年経った瞳は子供向けTVシリーズの監督を任される。だが、同時間帯に他局で放送されるのはかつて天才と言われた王子の作品。圧倒的な世界観の差に瞳は出鼻をくじかれる。

瞳の頭の中では、登場人物の言動と背景の動きが出来上がっている。それをコンテに起こした上で言語化してスタッフに伝えなければ、彼らは動いてくれない。ほとんどは年上のベテラン、誰よりも作品を理解しすべてのシーンを把握していなければ容赦なく突っ込まれる。そしてその小さな積み重ねが最終的には作品のメッセージとなって視聴者の心に突き刺さる。まだまだザコ扱いされていても “監督” と呼ばれることにプライドを持つようになった瞳の成長は、大きなプロジェクトは参加者全員の献身的な協力がなければ成功しないと訴える。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

並行して王子と組む女プロデューサーの奮闘も挿入される。王子に振り回されTV局との軋轢に苦しむ彼女の姿は、クリエーターのわがままに振り回される人間の苦悩がリアルに再現されていた。現場の責任者と作品の責任者、2人のヒロインの奮闘は、娯楽を生みだす者の葛藤はそのまま生きる喜びにつながると教えてくれる。

監督     吉野耕平
出演     吉岡里帆/中村倫也/柄本佑/尾野真千子/工藤阿須加/ 小野花梨/高野麻里/前野朋哉/古舘寛治/徳井優/六角精児
ナンバー     92
オススメ度     ★★★*


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