こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

アンモナイトの目覚め

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家族は老いた母親だけ、もう誰とも親しく会話もしないまま自分も年を取って行くと思っていた。そんな時彼女の前に現れた、夫に愛されていない若い妻。物語は、孤独と葛藤、不満と不安を抱えながら生きている2人の女が激しく求めあう姿を描く。心を固く閉ざした女は不愛想な表情を崩さない。うつ病治療中の妻からも感情は消えている。ところが、お互いに頼れる存在がいないと知って急速に接近する。19世紀前半のイングランド北部、海岸でひとり化石探しをするヒロインの心境を、容赦なく吹き付ける風と荒れた波が象徴していた。どんよりした冬の気候、陰鬱な昼間の風景に対し、ろうそくの明るさで撮影された影の濃い映像が美しい。ヨークシャー地方の海岸ではあれほど簡単に化石が見つかるものなのか?

古代生物の化石を発見したこともあるメアリーは小さな化石を観光客に売って生計を立てていた。ある日、店に訪れた上流階級の男が妻のシャーロットの面倒をメアリーに押し付けてロンドンに戻る。

まるで登場人物の内面をえぐるようなカメラワークはほんのわずかな喜怒哀楽の動きも見逃さない。メアリーは、シャーロットを厄介者のような目で見ているけれど、その透き通るような肌が気になってもいる。もともと同性愛者なのだろう、以前の交際相手・エリザベスに対してはかたくなに厚意を拒絶したりする。音楽会でエリザベスと談笑するシャーロットに激しく嫉妬するシーンは、人間関係の中で感情の制御を学んでこなかったメアリーの未熟さと純粋さが印象的だった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ふたりは愛し合う仲になる。同居の母が気づかぬふりをしているのは、女が子供を産んで育てる大変さを身に染みて知っているからだろう。そしてロンドンに戻ったシャーロットはメアリーにある提案をする。貧しくても、思い通りにならなくても、自由を奪われるのは嫌。まだ女性の人権が制限されていた時代、彼女たちがこんな選択はしないと思いながらも、化石を挟んで見つめあう2人の視線は、強く生きる意志が感じられた。

監督  フランシス・リー
出演  ケイト・ウィンスレット/シアーシャ・ローナン/ジェマ・ジョーンズ/ジェームズ・マッカードル/アレック・セカレアヌ/フィオナ・ショウ
ナンバー  66
オススメ度  ★★*


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