こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

山女

分厚い鈍色の雲が空を覆い、太陽は顔を見せない。作物の実りは悪く、生まれた赤ちゃんは育てられないと闇に葬られる。物語は、18世紀の東北地方、冷害に苦しむ農村の最底辺でかろうじて暮らす家族が受ける差別を描く。先祖が出した火事のせいで田畑を取り上げられ、代々穢れ仕事で糊口をしのいでいる。村人からは蔑まれ、水や食料も満足に供給されない。家は隙間だらけの掘立小屋、夜は筵を敷いて父娘息子3人で雑魚寝している。そんな日々にウンザリしながらも仕方ないとあきらめて受け入れてきた娘は、ふとしたきっかけで村を捨てて山に入る。まだまだ移動の自由がなかった時代、閉鎖的な人間関係の中で生き続けなければならない人々の表情は、平和を守るためには停滞と因習が必要であると教えてくれる。

村八分にあい、死体処理などの仕事で糊口をしのいでいる伊兵衛一家。不作で食糧不足が続く中、娘の凜が村の蔵から米を盗み、発覚して伊兵衛から激しく打擲される。

村人にも伊兵衛にも失望した凜は、ひとり結界の祠を越えて山奥の森に入る。そこで出会った山男と行動を共にするうちに、凜はあらゆるしがらみから解放された自由を味わう。食料を調達し火を熾し、ただ自分のためだけに食べて寝る生活。山男は一言もしゃべらないが、凜を対等な人間として扱ってくれる。生まれて初めて味わう、己で選択する人生の充実感。不衛生な環境で決して楽ではないはずだが、凜の表情は明るく輝いて見えた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

だが、ほどなくして凜は村人とマタギの捜索隊によってあっさりと捕縛され、さらなる過酷な運命にさらされていく。ただ、極端に落とした光量のせいで夜間の役者の表情や室内のディテールがほとんど判別できない。曇天下における人心の暗澹を表現したかったのだろうが、それでも実際の日中の戸外はもっと明るく物はクリアに見える。山野を彩る豊かな緑や花の白、燃え盛る炎や川のせせらぎなどを鮮やかな映像で再現して彼らの日常と対比させてこそ、その悲惨さが浮かび上がるのではないだろうか。

監督     福永壮志
出演     山田杏奈/森山未來/二ノ宮隆太郎/三浦透子/山中崇/白川和子/品川徹/でんでん/永瀬正敏
ナンバー     124
オススメ度     ★★


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https://www.yamaonna-movie.com/