こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

川っぺりムコリッタ

こんな自分が世間に受け入れられるだろうか。そう思いながら暮らし始めた平屋のアパートに住んでいるのは世間からはみ出した人々。物語は、元服役囚が新しい環境で人間関係を築いていく過程を描く。大家は若くて美しい未亡人、隣人は図々しく勝手に部屋にあがってくる。いつも黒い服を着ている父と息子は礼儀正しいが熱量低め。植物に水やりをしているおばあさんはもう死んでいる。皆、居場所はこのアパートしかない。だからこそ、困っている時は助け合う。カネはないけれど分かち合う。距離感は近いけれど肉親ほどの愛憎はない。お互いを気遣いながらも、それぞれの過去には深入りしない緩やかな共同体。格差の底辺にいるような生活なのに友人が多い、ミニマリストを自称する隣人のたくましさが強烈だった。

イカ加工工場で働き始めた山田は川沿いの小さなアパートを借りる。なるべく人とのかかわりを避けていたが、ほどなく島田が風呂を借りに来るようになり、ついでにご飯も食べていく。

時々、庭でとれた新鮮な野菜を島田はくれるのだが、いつの間にか山田が部屋にいる間はほとんど山田に付きまとっている。最初こそ迷惑そうにしていた山田だったが、そのうちそれを当たり前に受け入れている。両親の愛に恵まれず育ち友人も少ない山田にとって、島田は貴重な話し相手なのだろう。一方、島田も善良な人間なのだが、他人への配慮は欠いている。ムロツヨシが演じるとコミカルなキャラというより、どうしても気持ち悪い変質者のように見えるが、もう少し普通のアプローチでよかったのではないだろうか。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

幽霊が出たり墓石売りがいたり、山田自身も孤独死した父の遺骨を引き取っているなど、このアパートは非常にあの世と近い距離にある。最期まで父と意思の疎通ができなかった山田は、せめて成仏できるように散骨しようとする。もっと生きようとしていた父とは、何か話せたはずだ。ユニークな環境で父の思いを想像できるようになった山田の変化は、人との絆が人生を豊かにすると訴える。

監督     荻上直子
出演     松山ケンイチ/ムロツヨシ/満島ひかり/江口のりこ/田中美佐子/柄本佑/薬師丸ひろ子/笹野高史/緒形直人/吉岡秀隆
ナンバー     177
オススメ度     ★★*


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