こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

アイ・アム まきもと

だれにも看取られずに自宅で孤独死し、腐乱するまで発見されなかった老人たちがいる。家族も遺族もいない。たとえ見つかっても遺骨の引き取りは拒否される。物語は、そんな人々を丁重に扱い、さらに自腹で葬儀まであげてやろうとする男の奮闘を描く。集中すると周りが見えなくなる。含みを持たせた言葉の意味が理解できない。横断歩道では青信号でも右左確認してから渡る。食事は決められたメニューを日替わりで食べる。思い込みが激しく融通は利かないが決められたタスクはきちんと完遂する能力はある。それでも、周囲の人々と話がかみ合わないことが時々ある。現場や人情を知らずに合理化ばかりを進める官僚主義的な上司に、あくまで死者の思いを大切にしたいと訴える主人公の真摯なまなざしが美しかった。

小さな役所内のおみおくり係は廃止が決定、牧本は最後の案件となる蕪木の身寄りを捜し始める。ガラケーに残された連絡先をもとに精肉工場の元同僚を訪ね、蕪木の情報を集める。

粗暴な性格でトラブルばかり起こしていたのに、仲間のためには一肌脱いだ蕪木。男気があり女にはもてたという。さらに彼を知る食堂の女将や漁師仲間、嫌みばかり言う刑事とも交渉を重ね、蕪木の人となりを再構築していく牧本。そしてたどり着いた絶縁状態だった娘。くどくて騒がしい迷惑男を演じさせたら並ぶものがいない阿部サダヲのキャラが、アスペルガー症候群らしい設定をまとうことで最大限に生かされていた。それにしても煙を嫌がっている牧本の前で、精肉職人も女将も漁師も平気でたばこを吸う。喫煙マナーの悪さは、現代の話とは思えなかった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

蕪木が大切にしていたアルバムを実の娘・塔子に見せる牧本。最初は父を拒否していた塔子も、牧本の話を聞くうちに心が軟化していく。その後も炭鉱で命を助けられたという老人やホームレスからも評判を聞くうちに、牧本の最後の仕事はゴールが見えてくる。ただ、牧本の頑張りに報いる必要はないにしても、安易な決着のつけ方に唖然としたのも事実だ。

監督     水田伸生
出演     阿部サダヲ/満島ひかり/宇崎竜童/松下洸平/でんでん/松尾スズキ/宮沢りえ/國村隼
ナンバー     187
オススメ度     ★★*


↓公式サイト↓
https://www.iammakimoto.jp/