こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

バビ・ヤール

独裁者の圧政に苦しむ民衆は、別の独裁者が送り込んできた軍隊を解放軍として歓迎する。そして民衆は昨日まで隣人だった宗教コミュニティへの弾圧を見て見ぬふりをする。映画は、独ソ戦に民族のアイデンティティを翻弄されたウクライナで起きた悲劇をアーカイブ映像で再現する。突然空から降ってくる爆弾、立ち上る炎と黒煙、武装解除で打ちひしがれた捕虜、何日も放置されハエがたかった戦死体。それら目を背けたくなるような光景に遠慮なくレンズを向けた戦争の記録から必要なショットを探し出し編集された映像は、まるでストーリーがあるかのように滑らかな語り口だ。合計何百時間もあるフィルムにすべて目を通したのだろう、そこに注がれた驚異的な労力は圧倒的なリアリティを持って封印された黒歴史を発掘していた。

1941年、独ソ開戦後3か月ほどでドイツ軍の進駐を受けたウクライナ。西部地方ではナチスの傀儡政権の下、大規模なユダヤ人排斥運動が始まる。

キエフから撤退したソ連秘密警察が仕掛けた爆弾テロに関与したと、居住する全ユダヤ人は出頭命令を受け、郊外のバビ・ヤール渓谷で銃殺される。その数33,000人以上。大掛かりな準備をして効率よく発砲しても死にきれない者にとどめを刺すにはかなりの時間と手間がかかったはず。さすがに銃殺の瞬間の映像はない。見つからなかったのか、見つけたが採用しなかったのかは不明だが、その後、折り重なる死体が渓谷を埋めくすカラー写真が、その生々しい実態を伝えていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

’43年になるとソ連軍がキエフを奪還する。冬になり、戦車や大砲の残骸とともに大量の戦死者の死体が雪原に転がっている。放置されたまま凍った彼らは、祖国のために戦ったのに弔ってももらえない無念を叫んでいるようだった。戦後、ナチス戦犯が公開処刑される。広場の絞首刑台を立錐の余地のないほど群衆が囲んでいる。そして執行されると上がる歓声。正義や大義などどうでもいい、民衆は平和で豊かな暮らしを保証してくれる支配者を求めているとこの作品は訴えていた。

監督     セルゲイ・ロズニツァ
出演     
ナンバー     196
オススメ度     ★★★


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