こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

線は、僕を描く

筆の先と根元で含ませる墨の濃度に変化をつけ、竹の節を一筆で描く。色彩はないのになぜか生命の息吹を感じさせる躍動感が印象的だ。物語は、水墨画と出会った大学生がその道に人生を賭けようとする姿を追う。まったく興味がなかったのに、ふと目にした絵に涙があふれた。その道の大家にスカウトされた。墨を磨るうちに、心にたまった澱が濾過されていくような気分になった。動物や植物、雄大な自然の風景を対象にした作品に触れるうちに主人公が自らの感性を投影する方法を身に着けていく過程は、アートに対する情熱やより神の高みを目指す修業とは違う己を見つめ直す旅。頭の中のイメージを真っ白な和紙の上に具現化していくダイナミックなパフォーマンスは、大胆さと繊細さの見事なコラボレーションだった。

絵画展設営のバイト中に湖山から弟子になれと言われた霜介は、断り切れずに技法を習いだす。湖山がサクっと仕上げた「春蘭」を模写するうちに、霜介は水墨画の奥深さに魅了されていく。

湖山の弟子・千瑛は若手美人画家として注目を浴びているが自信を持てず、霜介は彼女との距離をなかなか詰められない。それでも、大学のサークルに千瑛を講師として招いたりして、彼女のご機嫌を取ったりするうちに少しずつ打ち解けてくる。また、湖山の身の回りの世話をしている男が実は相当な実力の持ち主であるなど、霜介には驚くことばかり。各人が得意とする分野を持ち、それに関しては仕組みや造形を隅々まで知り尽くした上で、墨と筆で再現していく。時にペンキ用の刷毛を使うなど、堅苦しい伝統に固執するのではなく新しい技法にもチャレンジしているあたりが非常に魅力的だった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

さまざまな事件が起きつつも、千瑛は大きな賞を、霜介は新人賞を目指して切磋琢磨する。写実的である必要はない。ディテールの正確さよりも、どれだけ鑑賞者の想像力に訴えるかが評価のポイント。初めて筆を握ってから1年ほどで新人賞を取れる参入障壁の低さもまた、水墨画を始める動機になるかもしれない。

監督     小泉徳宏
出演     横浜流星/清原果耶/細田佳央太/河合優実/富田靖子/江口洋介/三浦友和
ナンバー     198
オススメ度     ★★★


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