こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

鳩のごとく 蛇のごとく 斜陽

身分ははく奪され残った財産もだまし取られた。それでも生きる希望までは失っていない。物語は、没落した貴族の娘が無頼派作家と交際するうちに力強く自由に生きる意志を固める姿を描く。慣れない農作業では食べていけず、切り売り生活が続く。母は病気になり、復員した弟は現実逃避している。さらに苦しくなる日常の中でヒロインが縋ったのは身分違いの愛。家に妻子を残したまま何日も飲み歩き、取り巻き連中に囲まれていい気になり、飲み屋の奥の座敷に寝泊まりしながら原稿を書き、気に入った女が目の前にいるとすかさず口説き、原稿料が入ったら札束でつけを払う。まさしく “文士” を体現したような作家の破滅的な生き方は、時代の先を走っていたつもりだったのに、気づくと時代に追いつかれてしまった焦燥感に満ちていた。

伊豆に引っ越したかず子は病気の母を気遣いながらひっそりと暮らしていたが、弟・直治が復員してくる。流行作家・上原の元のいる直治を連れ戻すため、かず子は東京に向かう。

敗戦直後の雑然とした闇市、男たちはチンピラに、女たちは娼婦になっても、たくましく生きている。一方で、当時は郊外だった西荻あたりでは飲み屋街の灯がともり、店も繁盛している。上原は文学賞とは無縁だが人気は上々、直治を捜しに来たかず子とふたりで飲みなおす。かず子と上原は6年前にも縁があったが、お互いに忘れておらず、すぐに心に火がついてしまう。世の中は何もかも変わってしまったのに、彼らの心にくすぶり続けていた欲情は変わっていない。もう恋に落ちる年齢じゃない、まどろっこしい駆け引きなどなく純粋な性欲に従う。端正に作りこまれた映像は、ふたりの本能を赤裸々に再現していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

その後、病に倒れた上原に妊娠と別れを告げに行くかず子。上原の吐血を口移しに吸い出すかず子の赤く染まった口元は、自分で考え自分で生きていく生き抜く覚悟を決めた女の強さを象徴していた。価値観の逆転についていけなかった男と、現実に折り合いをつける女の対比が鮮明だった。

監督     近藤明男
出演     宮本茉由/安藤政信/水野真紀/奥野壮/田中健/細川直美/白須慶子/三上寛/萬田久子/岡元あつこ
ナンバー     183
オススメ度     ★★★*


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