こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

MEN 同じ顔の男たち

夫を死に追いやってしまった。あれは不幸な事故だったと自分に言い聞かせていた。だが、落ち着くとともに大きくなる、割り切れない思い。物語は、郊外の屋敷でリフレッシュしようとする女の妄想を描く。都会の喧騒を忘れてゆったりと過ごすはずだった。やり直すために考えを整理しようと思っていた。集落から少し離れた一軒家で人生を見つめ直すつもりだった。だが、禁断のトンネルに足を踏み入れ自分の名を叫んだとき、悪夢の封印は解かれる。延々と繰り返すこだま、裸の男、モンローお面の少年、鹿の死骸、傷ついたカラスetc. 次々と形を変える不吉なイメージの羅列は彼女の胸の奥に潜む自責の念。やがてそれは勝手に増殖してヒロインの現実を蝕み始める。腕から先が二股に裂けた左手が強烈な悪意を象徴していた。

森を連ねる小径を散策中に裸の男を見かけたハーパーは、滞在する屋敷の庭に彼が侵入しているのを見つけて警察に通報する。男は警官に逮捕されるが、ほどなく釈放される。

暴力を振るってきた夫を許せず、彼をアパートから追い出した。その後夫は転落死した。自殺だったのかもしれない。教会で一連の記憶を反芻していたハーパーは聖職者に声を掛けられ、“謝る機会を与えたか” “死ぬほどの罪か” と問われ悪態をつく。それは夫の死以降、彼女が自問自答してきたこと。ここで素直に過失を認め後悔の涙を流していれば夜の恐怖は起こらなかったのかもしれない。夫に与えなかった謝罪の機会をハーパーは聖職者に与えられたのに、その厚意を踏みにじったのだ。ある意味、彼女が報いを受けるのは当然だろう。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

広い屋敷で孤立したハーパーは、同じ顔をした男たちに詰め寄られる。そこでは暴力的なのはむしろハーパーで、手にしたナイフで振り回す。小さな性差別を受けてきたハーパーが鬱憤を晴らしているのだろうか。そして何度も繰り返される誕生と死。ネタばらし解説のような第三者視点の映像を差し込まず、あくまで想像にゆだねる。観客を信頼する姿勢には好感が持てた。

監督     アレックス・ガーランド
出演     ジェシー・バックリー/ロリー・キニア/パーパ・エッシードゥ/ゲイル・ランキン
ナンバー     232
オススメ度     ★★★*


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