こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ニューヨーク 親切なロシア料理店

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人助けに生きがいを感じているナース。何をやっても不器用で世間からつまはじきにされた若者。子連れで逃げ出し行き場を失った母親。彼らが頼るのは、歴史は古いが味もサービスもイマイチなロシア料理店。物語は、冬のNYで他人の温もりを求めて集った人々の触れ合いを描く。若くして妊娠・結婚・出産を経験した女は、2人の息子と街をさまよいながら窃盗を繰り返す。なんのスキルもなく定職に就いたこともない彼女には働くという概念がなく、好意にすがるしかない。でも、息子への愛情は強く、軽犯罪を犯しても彼らを飢えさせないと心に決めている。そんな、社会から落ちこぼれた彼らに対して、なんとか生きてもらいたいと望む人々もいる。厳しい競争だけではない、他者への親切もこの大都会の魅力なのだ。

クララは息子たちをクルマに乗せてマンハッタンに到着するが、すぐにクルマを失いホームレスになる。教会を訪れると看護師のアリスからベッドを借り一夜を過ごすが、次男が凍えてしまう。

日中は誰にでも門戸を開いている図書館で時間をつぶすクララ。息子たちには、困っている人からは盗まないと言い訳しながらも、デパートで万引きし、パーティ会場から無断で食べ物を持ち出し、託児所でシャワーを借り、レストランのクロークからコートを拝借する。警官でもあるDV夫に追跡されているために公的機関をあてにできず、ボランティアの炊き出しでやっとまともな食事にありつくシーンが衝撃的だ。コロナ禍で仕事を失った人々が初めて迎える年末、事情は違えども彼女たちのような家族が日本でも急増しそうで切ない気持ちになった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

マークが支配人を務めるレストランに忍び込んだクララは、客でもないのに追い出されもせず、むしろ部屋を提供される。だがマークの下心を疑った長男が猛烈に抵抗する。クララのような、経済的観点から見ると役立たずの女でも、息子にとってはたった一人の大切な母親。母子の深い絆はカネや物質的豊かさでは測れない貴重なものだとこの作品は教えてくれる。

監督  ロネ・シェルフィグ
出演  ゾーイ・カザン/アンドレア・ライズボロー/ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ/タハール・ラヒム/ジェイ・バルチェル/ビル・ナイ/ジャック・フルトン/フィンレイ・ボイタク=ヒソン
ナンバー  222
オススメ度  ★★*


↓公式サイト↓
http://www.cetera.co.jp/NY/