こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

逆転のトライアングル

モデルたちは、高級ブランドを身に着けるときは険しい顔、ファストファッションのときはは笑顔になれと言われる。レストランでは、女の方が稼いでいても必ず男が支払う。豪華客船の客はみな白人、彼らの目に入るクルーも白人だけ。格差の解消や人種・ジェンダー平等といった “リベラル” が唱えるきれいごとを笑い飛ばすかのごとき現実を突きつけるエピソードの数々が秀逸だ。物語は、クルーズ船に招待されたモデルカップルが体験する革命を描く。社会主義は滅び、民主国家強権国家を問わず資本主義が跋扈している。セレブな乗客たちはカネの力を見せびらかし、クルーはみなそれにひれ伏す。接客係たちが「マネーマネー」と叫ぶシーンは、カネこそが正義でいくら稼ぐかが人間の値打ちであるという21世紀新自由主義の末路を象徴していた。

カールとヤヤがランチの席でロシアの富豪夫妻と相席、親しくなる。他の客も事業で財を成した大金持ちぞろい、カールは居心地の悪さを感じているが、美貌を武器にするヤヤは楽しんでいる。

キッチンでは「インターナショナル」が歌われている。肉体労働者は非欧州系。客船という隔離された社会では前近代的な階級がそのまま維持されている。カールとヤヤは本来アウトサイダーだが、カールは労働者にあいさつしたヤヤをなじり、その労働者をクビにしたりする。モデルといっても収入に恵まれないカールが良心の呵責とともに、自分は労働者側にはならないと決意するシーンは、セレブになれなくても中流にはとどまっていたいと願う小市民の気持ちが凝縮されていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

客船は遭難し、カールとヤヤを含む乗客乗員8人が無人島に漂着する。サバイバル能力に長けた掃除婦のアビゲイルが権力を握り、カールは彼女に逆夜伽を命じられる。カールは後ろめたさを覚えながらも食料のためと従う。富豪たちもアビゲイルには逆らわない。価値観が180度変わる時、自己主張をして権力者に睨まれるよりはおとなしくしていた方が生存の確率は高まると、カールの選択は教えてくれる。

監督     リューベン・オストルンド
出演     ハリス・ディキンソン/チャールビ・ディーン/ウッディ・ハレルソン/ビッキ・ベルリン/ズラッコ・ブリッチ/ジャン=クリストフ・フォリー/ドリー・デ・レオン/アルビン・カナニアン/キャロライナ・ギリング/ラルフ・シーチア
ナンバー     35
オススメ度     ★★★*


↓公式サイト↓
https://gaga.ne.jp/triangle/