こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

エンパイア・オブ・ライト

豪華なエントランス、ロビーではタバコを吸う輩がいる。チケットは1枚ずつ手売り、数百席はある場内は自由席で繰り返し鑑賞できる。スクリーンは上映開始までカーテンに覆われている。映写機は2台、巻のつなぎ目にはフィルムの端にマークがついている。1980年代の映画館、現代のシネコンでは見られなくなった設備が懐かしい。物語は、映画館従業員の中年女と新人の恋を描く。いまだに独身で上司のセクハラを受け入れてしまう。恋活にもあまり気乗りがしない。ひとりの夕食にも慣れてしまった。そんな時現れた、活力にあふれた青年。だが肌の色ゆえに町にあふれる失業者からは快く思われていない。まだまだ人種差別があった時代、彼とは人目を避けて会っている。遠く離れたビーチでデートするシーンに彼らの微妙な関係が凝縮されていた。

地方都市の映画館に大学進学を目指すスティーヴンが新たに雇われる。彼のやさしさに惹かれたヒラリーは、立ち入り禁止になっている上階ロビーで密会を重ねるようになる。

母子ほど年齢は離れている。でもお互いに遠慮することなく唇を求めあい体を重ねている。ヒラリーは孤独ゆえ、スティーヴンはヒラリーが黒人に偏見を持たないがゆえ、お互いに安心するのだろう。白人おばさんと黒人青年のカップルは英国でも当時はかなり衝撃的だったはず。そして従業員の間では彼らの仲は公然の秘密。そのあたり、ヒラリーはやっぱり周囲から少し考えが変わった女とみられていたのだろう。映画館に勤務しているのに映画を見ないヒラリー、彼女の心が暴走するスピーチとその後の告発は、「女」と「黒人」という代表的な被差別属性の人々の怒りが象徴されていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ヘイトデモに襲われたスティーヴンを必死でかばうヒラリー。その後も見舞いに行くなど、一度壊れたふたりの関係は元に戻らないまでも良好さを保っている。そして旅立ち。この地にとどまる者と新たなステージを目指して大都会に飛び立つ者の差は残酷だ。ただ、せっかく映画館を舞台にしてるのだから映画を愛する人をヒロインにしてほしかった。

監督     サム・メンデス
出演     オリビア・コールマン/マイケル・ウォード/トム・ブルック/ターニャ・ムーディ/ハンナ・オンスロー/クリスタル・クラーク/トビー・ジョーンズ/コリン・ファース
ナンバー     38
オススメ度     ★★★


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