こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ

f:id:otello:20201019142731j:plain

器用な祖父は意匠を凝らした白い家をすべて己の手で建てた。そこにはこの地にやってきた最初の黒人の苦労と誇りが凝縮されている。だが白い家は人手に渡り、買い戻すには途方もないカネを払わなければならない。物語は、サンフランシスコの高級住宅街に立つ豪邸を取り返すために奔走する青年の葛藤を描く。犯罪に手を染めず真面目に生きてきた。世の中に不満もあるが、きちんと管理しない老夫婦に代って白い家のメンテナンスに励んでいる。しかし、不動産価格の高騰が旧住民を遠ざけ、金持ちしか住めない街にしてしまった。リベラルな土地柄ゆえか、白人たちは黒人への露骨な差別感情は示さない。一方で、主人公があいさつした白人の老人が笑顔の裏ですぐ悪態をつくシーンが、いまだに強く残る貧困層への偏見を象徴していた。

ジミーは親友のモントとともに白い家に押し掛けては勝手にペンキを塗ったり庭に手を入れたりする。ある日、持ち主の老夫婦が退去、ジミーは鍵を開けて侵入し、白い家に住み始める。

不法占拠なのはわかっている。それでもずっと夢に見ていた祖父の家。ジミーは家族の思い出が染みついた家財道具を持ち込み、つかの間の幸せに浸る。街頭ツアーの引率者が語る白い家の来歴とはまったく違う見解を示すジミーは、信じたいことだけを信じている。ところが、まだ健在の父も母も、白い家には興味を示さない。ジミーの白い家に対する過剰な思いは過ぎ去った良き時代へのノスタルジーなどではなく、施設しで暮ら失われた自分の存在意義を取り戻すための通過儀礼なのだ。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ジミーは不動産管理会社に見つかって追い出される。再び行き場を失ったジミーの哀しみを、表現者でもあるモントは戯曲にまとめ、ひとり芝居の公演を催す。そしてモントが明らかにする白い家の真実。時の流れ、資本主義の理論、そうした大きな波の前ではジミーは無力。再開発される地域も景観を保存しようとする地区も結局は自由競争が優先される。加速する時代についていけない人々の背中は寂しそうだった。

監督  ジョー・タルボット
出演  ジミー・フェイルズ/ジョナサン・メジャース/ロブ・モーガン/ダニー・グローヴァー
ナンバー  177
オススメ度  ★★*


↓公式サイト↓
http://phantom-film.com/lastblackman-movie/