こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

銀河鉄道の父

息子は丈夫ではなかった。学業成績もそこそこで、プロレタリア思想にかぶれ家業を否定したりもする。それでも弱き人々の気持ちを汲み取るやさしさと創作の情熱には恵まれていた。物語は、死後に有名になった童話作家と彼の父の交流を描く。長男誕生に父は歓喜する。息子が病気で入院すると泊まり込みで看病し、反対した進学にも結局援助する。思うように育ってくれないけれど、注ぐ愛情は変わらない。一方で農民への技術指導と原稿用紙に向かう、競争とは無縁の日々を送る息子。裕福な環境に生まれたからこそ豊かな想像力が育まれた。家族が後押ししてくれたからこそ執筆の時間が取れた。困窮民とは身近に接するけれど、経済的には父と弟に依存しているという葛藤が、彼の繊細さを象徴していた。

旅行中に生まれた長男・賢治を目に入れても痛くないほどかわいがる政次郎。賢治が高等農林学校に行きたいと言い出すと渋るが、長女のトシに言いくるめられ認めてしまう。

その後、東京の女学校から戻ったトシは結核を患い、短い生涯を終える。その際「あめゆじゅとてちてけんじゃ」が紹介されるが、遠のく意識の中で最後の力を振り絞って賢治が取ってきた雪片を口に含むトシの表情が哀しかった。唯一の理解者だったトシの死後も賢治は書き続けるが、自費出版は売れ残る。だからといって生活に困るわけでもない。「雨ニモマケズ」と、無欲と清貧を貫いてはいるが、それはすべて政次郎と家業を継いだ弟のおかげなのだ。賢治はあくまで高等遊民的な生活を謳歌しているあたり、数多ある美化された伝記とは一線を画していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

その後賢治も床に臥せる。行李いっぱいに書き溜められた原稿用紙を託された弟が出版にこぎつけ、その後評価されるのは周知の事実。一部のファンタジックな映像はイーハトーブを想起させるが、全体的に躍動感がなくカメラワークもキレがない。父の視点から見た宮澤賢治はどういう人間だったのか、独特のオノマトペはどうして生まれたのか、もう少し掘り下げてほしかった。

監督     成島出
出演     役所広司/菅田将暉/森七菜/豊田裕大/坂井真紀/田中泯
ナンバー     84
オススメ度     ★★*


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