こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ジュリア(s) 

人生とは、行動と選択、出会った人々、そして偶然の積み重ねなのか。それとも運命なのか。物語は、女ピアニストの枝別れしたさまざまな半生を描く。若いころの成功が必ずしもその後の幸福につながるとは限らない。些細な失敗やすれ違いのみならず、大きな挫折や事故で順調に思えていた日々が突如暗転する。それでも希望を失わずかかわった人々との関係を大切にしていると、必ず転機がやってくる。一方で、着実にキャリアを積んでいても出産や子育ての重圧に押しつぶされそうになる。わずかなタイミングや意識の持ち方の違いで彼女たちが進んだ分かれ道は、もしかしたら別の自分につながっていたかもしれない。大流行中のマルチバースものではあるが、ハリウッドの下品な解釈とは一線を画し、あくまでエスプリに富んだ映像は最後までテンションが衰えない。

音楽学校でピアノを専攻するジュリアは、ベルリンの壁崩壊の瞬間を見ようと夜行バスに乗る。壁付近に放置されたピアノを演奏するとその姿が新聞報道され、父に殴打される。

パスポートを忘れてベルリンに行かなかったジュリアは、その後数学者のポールと出会って恋に落ちた上にコンクールでも優勝、華々しいデビューを飾る。ポールと出会わなかったジュリアもいて、そちらは細々と音楽活動を続けているうちに才能を発掘されたりもする。それぞれのジュリアは浮き沈みを繰り返しながらもその時々にできることに精一杯励んでいる。彼女たちは、怒りや悲しみ、ままならない現状に苦しんだりもするが、決して投げ出したりはしない。選ぶ道は無数にあるが、選んだ道はひとつしかない。過去は変えられないが、その感じ方は変えることができる。そんな言葉を想起させるジュリアの生き方は、取り返しのつかないことをやらかした後悔よりも、やるべきことをやらなかった後悔の方がより重いと教えてくれる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ポールと出会った本屋ではユーロ支払いが求められていたが、1990年代前半はまだ流通していなかったはず。ちょっと気になった。

監督     オリビエ・トレイナー
出演     ルー・ドゥ・ラージュ/ラファエル・ペルソナス/ イザベル・カレ/グレゴリー・ガドゥボワ/エステール・ガレル/セバスチャン・プードル
ナンバー     83
オススメ度     ★★★*


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