こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

EO イーオー

その大きな瞳は混じりけのない暗黒のよう。映ったモノや人、そして出来事を脳に伝達するが、すべてを記憶できるほど意識は発達していない。記憶といえるのは少女に大切に扱われたときに感じた安らぎだけ。物語は、飼われていたロバがさまざまな人手を介するうちに見聞した人間の愚かさを描く。人に使役されていると動物愛護団体が虐待と叫ぶ。高貴な姿をした白馬の前では、その造形はみすぼらしく思われる。夜の森を歩いていると野生のオオカミやタヌキが牽制してくる。勝利の女神と讃えてくれるチームもあれば、疫病神と棒きれで叩きのめさすサポーターもいる。ロバはただ偶然そこを通りかかっただけなのに、かかわった人間たちは勝手に意味を見出し、ロバを自分の人生に巻き込んでいく。主人公であるロバを愛玩動物のように擬人化しない視点が心地よかった。

サーカス団で芸を披露していたロバのEOは、運営会社の破産で差し押さえられ牧場に引き取られるが、壊れた柵から逃げ出す。紆余曲折を経て森を抜け街に入ると消防団に捕獲される。

放っておいてもおとなしく、鞭打たずとも寡黙に荷車を引くEO。飼い主の命令に従っていれば安全と餌は保証されている。それはEOにとっても悪くないはず。ところが人間の思惑ひとつでEOを取り巻く環境は激変し、その運命は翻弄される。所詮は家畜、野生で自立する力はない。過重労働を強制されると嫌がるが、100%の自由を与えられても不安と恐怖に襲われるだけ。それは物質文明にどっぷりとつかった先進国の人間を強烈に皮肉っているようだった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

その後もトレーラーの運転手や没落貴族などの日常に触れたEO。つかの間の旅は、結局用途のない家畜は食肉加工場に送られるという定めに従う。そんなEOの生と死は比喩的で象徴的で暗示的だ。大けがを負ったEOが四足動物の動きを模したロボットにとってかわられるシーンは、テクノロジーが人間をあらゆる拘束から解き放ってくれる可能性を示唆していた。でもやっぱり煩わしくても人間関係を選ぶだろうな。

監督     イエジー・スコリモフスキ
出演     サンドラ・ジマルスカ/ロレンツォ・ズルゾロ/マテウシュ・コシチュキェビチ/イザベル・ユペール
ナンバー     91
オススメ度     ★★★


↓公式サイト↓
https://eo-movie.com/