こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

オレンジ・ランプ

客との約束をすっぽかす。同じお土産を2日連続で買って帰る。些細なミスを重ねるうちに、脳に異常をきたしているのかと自覚する。物語は、30代で認知症を発症した男とその家族の葛藤を描く。完治はしない。介護保険も出ない。そのうち友人の顔を思い出せなくなり家への帰り道も迷ってしまう。衰えていく認知機能にイライラが加速する。妻や同僚に気遣われるのが腹立たしい。そんな衝動を戒めるため手のひらに “怒らない!” と書く主人公のやさしさが切ない。まだ症状は初歩段階、できることとできないことをきちんと区別し対処すればそれなりの自立した生活は送れると考える彼と妻の前向きな生き方が、頼れる相手がいる幸せを象徴する。健全な記憶と失った記憶、何が基準で選別されているのかわからないところが恐ろしい。

若年性アルツハイマー症と診断された晃一は、妻・真央の助けを借りてなんとか日常生活を送っている。ある日、患者の集まりに参加、同じ悩みを克服した人々の体験談に勇気づけられる。

それまでは迷惑をかけないよう振る舞っていた晃一だったが、積極的に周囲に助けを求めるようになる。帰宅途中に道に迷った時も事情を記したカードを道行く人に見せてバス停まで見守ってもらう。頼みごとをされた人もそれくらいならと喜んで手を貸す。それが好循環となって晃一の日常は保たれ、逆に周囲の人々を変えていく。自ら困っていると声を上げることで小さな親切の連鎖を呼ぶ。この発見が晃一の日常を一変させる過程は、たいていの人は誰かの役に立ちたいと願っていることを教えてくれる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

現実を受け入れた晃一はメモをまめにとりToDoリストを作る。忘れる前に書き残しておく、それは日々のスケジュールだけでなく仕事のノウハウにまで及び、晃一の生きた証となっていく。そんな彼を全身で支える妻の愛と娘たちの思いは、家族という人間関係は危機に直面した時にその真価が問われると訴えていた。講演活動も始めた晃一だが、予定やスピーチ内容を忘れないのか心配になった。

監督     三原光尋
出演     貫地谷しほり/和田正人/伊嵜充則/新井康弘/山田雅人/赤間麻里子/赤井英和/中尾ミエ
ナンバー     87
オススメ度     ★★★*


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