こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

逃げきれた夢

いい息子、いい父、いい夫、いい先生、いい友人。自分が理想としている人間になろうとしているのにどこかぎこちない。むしろその模範的な言動に周囲はドン引きし奇異の視線すら向けてくる。物語は、進行性の認知症になった男の日常を描く。定時制高校の教頭としてもうすぐ定年を迎える。自己評価が低く将来に希望を持てずにいる生徒たちにも一人ずつ声をかけ、不真面目な態度にも決して声を荒げず、黙って煙草の吸殻を拾い続ける模範的な先生を演じてきた。なのに家庭では娘に相手にされず妻には接触を拒否される。定食屋で働く元教え子とだけは微妙な距離感ながらコミュニケーションが取れている。何気ないようで火種がくすぶっている日々、そこから彼の人生が浮かび上がってくるという構成がイマジネーションを刺激する。

介護施設の父を見舞い、ソファで寝そべる娘に話しかけ、学校でもそつなく過ごす末永は、毎日寄る定食屋で支払いをせずに立ち去る。追いかけてきた女店員・平賀に、忘れる病気だと打ち明ける。

医者の見立てでも悪化する可能性は高い。末永は今までの人間関係を見直そうとする。だが、すでに妻とは修復不可能で、久しぶりに会いに行った親友にも自分勝手といわれてしまう。先生としてつつがなく過ごすのを最優先にしてきたのだろう、校長への野心も少しはあったが今はあきらめている。生徒に好かれようとする、きれいごとしか言わない、授業がつまらない。嫌われる先生の3条件を自分が備えているのも分かっている。ちょっと癖はあるけれど基本的にはいい人、そんな末永の小市民的な生き方が、あえて言及されないことで鮮明になっていく。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

平賀に呼び出された末永は、彼女を思い出の所に連れまわす。ひとりではしゃぐ末永を平賀は冷めた目で見つめる。そして入った喫茶店、そこで交わされる会話で彼らの過去が明らかになる。一度だけの過ちだったのか。それとも鬱積した不満を爆発させるトリガーだったのか。背負うものがなくなった末永の背中は解放感に満ちていた。

監督     二ノ宮隆太郎
出演     光石研/吉本実憂/工藤遥/杏花/岡本麗/光石禎弘/坂井真紀/松重豊
ナンバー     110
オススメ度     ★★★*


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