ディーラーから配られたカードをすべて覚え、残ったカードから勝ち札が来る確率を計算すればほぼ負けない。だが目立たぬように大勝は控え、少額のチップを得ては現金に換えるだけ。物語は、心に深い傷を負ったギャンブラーが魂の救済を求めて彷徨する姿を描く。カードを操る技術は刑務所の有り余る時間で身に着けた。トラウマに引きずられ、なかなか安眠が訪れない。そんな時出会った若者は、かつて自分が憎んだ男に復讐しようとしている。手伝うべきか止めるべきか、男は若者と行動を共にするうちに、彼を救うことが己の赦しにつながると確信していく。言葉や感情表現は少なく、抑制の効いた演出は、孤独の中で自らを罰するような生き方が苦悩から解放してくれると信じているかのような主人公の胸中を象徴していた。
セキュリティ関連のカンファレンスでかつての上官・ゴードのプレゼンに参加したビルは、カークという若者に声を掛けられる。カークは自分の父を自殺に追い込んだのはゴードだと言う。
静かな人生を手に入れたと思っていたビルだったが、未熟さゆえにいつ暴走するかわからないカートを放ってはおけず、カジノを転々とする日常に彼を引き入れる。そのうえで残された母を大切にしろとアドバイスし、彼らの借金まで肩代わりしようとする。ビルはゴードのせいで軍刑務所に服役していたが、今はゴードに対する恨みよりも自らが犯した罪を償いたいと思っている。せっかく鎮めた怒り、カートにも復讐は無意味だと教えようとするが、カートは納得しない。彼らがしがみついている人生には、希望も居場所もないという現実が哀しい。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
そして明らかになるゴードの素性。すさまじい拷問テクニックを駆使してテロリストたちに加えた虐待は、その実行役だったビルの精神を確実にむしばんでいる。同じ苦しみをカークの父も味わっていたはず。なのにゴードは責任を問われずビジネスマンとして成功している。罪悪感などないゴードの考え方には資本主義社会で生き残る秘訣が凝縮されていた。
監督 ポール・シュレイダー
出演 オスカー・アイザック/ティファニー・ハディッシュ/タイ・シェリダン/ウィレム・デフォー
ナンバー 115
オススメ度 ★★★*