こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

あしたの少女

 

客からは罵倒される。上司からは叱責される。こんなはずじゃなかった、もっと明るい未来が待っていると信じていた。思いもよらない現実に、彼女は神経をすり減らし、心を麻痺させ、やがてそれに慣れていく。物語は、実習生として働き始めた卒業間際の女子高生が厳しい搾取にさらされる姿を描く。契約を交わしているはずなのにきちんと給料が支払われない。成績表が張り出され、いつもノルマに追われている。それでも結果を出せば評価されると頑張ってきたのに会社は報いようとはしない。そして、そんな非人間的な状態を命がけで告発してもあっさりもみ消される。大人に騙された。社会に裏切られた。映像は、格差社会の底辺でもがく人々の怒りと絶望をリアルに再現することで、新自由主義の末路を予言する。

担任の推薦でコールセンターに職を得たソヒは、顧客よりも利益を優先する空気になじめずにいた。ある日、ソヒに目をかけてくれていたチーム長が会社の駐車場で自殺する。

チーム長は遺書を書いていたが発覚を恐れた会社側はかん口令を敷いた上、社員の弔問も禁止する。新しく来た女チーム長は、ただ一人葬儀に参列したソヒと反りが合わず、衝突が絶えない。まともな就職先は一流大卒エリートのもの、高卒は若さと体力を切り売りするしかない。担任に相談しても学校の体面ばかり優先させ、ソヒの気持ちは後回し。やり場のない思いを抱えたままどこにも逃げられず、ただ黙って耐えるしかない。希望を失ったソヒの背中が哀しく切なかった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

湖から上がったソヒの遺体を検分する刑事・ユジンは、彼女がなぜ自ら命を絶ったのかを捜査し始める。会社も学校も監督官庁も、責任逃れの言い訳ばかり。ユジンは彼らの主張の問題点をひとつずつ潰していくが、そこで浮かび上がるのは、実習生労働にかかわる大人たちもまた数字と成果を求められている事実。無音のスタジオでひとりダンスの練習に興じるソヒの孤独は、踊り続けなければならない21世紀の資本主義国の生きづらさを象徴していた。

監督     チョン・ジュリ
出演     ペ・ドゥナ/キム・シウン/チョン・フェリン/カン・ヒョンオ/パク・ウヨン/チョン・スハ/シム・ヒソプ/チェ・ヒジン
ナンバー     105
オススメ度     ★★★★


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