こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

キャロル・オブ・ザ・ベル 家族の絆を奏でる詩

この歌を朗唱すれば必ず幸福がやってくる。そう信じている少女はぎくしゃくした大人の関係を一曲で和ませてしまう。物語は、第二次世界大戦期、ウクライナ西部の小さな町の同じ建物内で暮らす少女たちの過酷な運命を描く。ポーランド軍人一家とウクライナ人音楽家一家は最初のうち反りが合わなかった。ユダヤ人大家は諍いが起きないか気を使っている。3つの家族、3つの信仰と習慣。そんな事情など頭にない娘たちは子供同士すぐに仲良くなり、世情が移り支配者が変わる中で本当の姉妹のような絆を強めていく。だが、銃と軍靴の前では人々はあまりにも無力。逮捕され追放されあるいは殺される。それでも生き残った者たちは命のバトンをつないでいかなければならない。娘たちの歌声と共にウクライナ人母の寛容さが涙腺を刺激する。

独ソ開戦でポーランド人夫婦が連行され、ウクライナ人のソフィアは彼らの娘を託される。ドイツ占領下ではユダヤ人夫婦の娘の面倒も引き受け、ソフィアは取り締まりに怯えながらも彼女たちを守る。

自分の娘を含め、4人の女の子の命を守らなければならないソフィア。目立たないようにと外出を禁止し、家宅捜査時には預かった娘を隠し金庫に匿ったりする。息が詰まるような生活、娘たちの緊張感とストレスは高まり戒めを破った一番幼い娘が命を落としたりする。その後ソフィアが引っ越してきたドイツ人家族の息子に歌唱を教え始めると、ユダヤ人の娘はさらに窮屈な思いを強いられる。失われた子供時代、それ故に娘たちはお互いを思いやる気持ちを育み、ソフィアの苦労に報いようとする。透き通るような肌の少女たち、とくにソフィアの長女・ヤロスラワのよく響くソプラノは、あらゆる苦難に対する癒しと赦しのようだった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ドイツ軍が撤退すると再びソ連の恐怖政治に直面するソフィアたちだが、異様な状況でも決して生きることをあきらめず事態は好転すると信じている。引き離され絶望の淵に立たされても、音楽は必ず希望を与えてくれるとこの作品は訴える。

監督     オレシア・モルグレッツ=イサイェンコ
出演     ヤナ・コロリョーバ/アンドリー・モストレーンコ/ヨアンナ・オポズダ/ミロスワフ・ハニシェフスキ/ポリナ・グロモバ/フルィスティーナ・オレヒブナ・ウシーツカ/アラ・ビニェイエバ/トマシュ・ソブチャク/エウゲニア・ソロドブニク
ナンバー     114
オススメ度     ★★★*


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