こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

トゥ・クール・トゥ・キル 殺せない殺し屋

日々演技に魂を込めようと研鑽を積んでいるのに、一向に成果が出ない。監督に認められようと張り切るほど、大げさな感情表現で評価を落としてしまう。物語は、売れない役者が殺し屋に仕立て上げられ本物のギャング相手に大立ち回りを演じる姿をコミカルに描く。殺し屋の素性や顔は誰も知らない。連絡先を知っているととっさの嘘をついた女優は弟の監督とグルになって売れない役者に目をつける。すっかり自分が主演を張ると信じた売れない役者は大張り切り、得意の過剰な演技でギャングたちを振り回す。実物の殺し屋なんか誰も見たことはない。映画や小説のキャラクターで勝手に創造を膨らませているだけ。そんな情報不足に付け込んで、売れない役者は外連味たっぷりに殺し屋になり切り、ギャングたちを手玉に取っていく。彼の奮闘は、ハッタリこそが創作の原動力と訴える。

ギャングのボス・ハーベイへの借金返済を引き延ばすために伝説の殺し屋・カールを紹介すると口走ったミランは、弟のミラー偽の映画撮影を共謀、エキストラのウェイにカール役をオファーする。

本物の撮影と信じたウェイはカールになり切り、ハーベイのオフィスに乗り込む。芝居がかった所作はむしろギャングたちを恐れさせ、ミランたちの作戦は成功したかに見える。だが、ハーベイがウェイを気に入ったことから事態は複雑になっていく。虚構を信じさせるにはいかにディテールにリアリティを持たせるか、それを映画という虚構の中の基本設定にする。そのユニークな着眼点とフィルムノワールをパロディにした世界観、軽妙なテンポの語り口が非常に心地よい。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ギャングの側にも内部対立があり、ミランたちの茶番を利用してハーベイを消そうとする者もいる。一方で本物のカールが復活したりしてまさに一寸先は闇の混沌。その窮地を映画屋ならではのアイデアで乗り切るクライマックスは、虚実皮膜の間に真実を見つけ出すことこそが映画を楽しむ醍醐味であると教えてくれる。ウェイのやせ我慢が「カサブランカ」を彷彿させた。

監督     シン・ウェンション
出演     ウェイ・シャン/マー・リー/チェン・ミンハオ/ジョウ・ダーヨン/ホアン・ツァイルン/アレン・アイ
ナンバー     126
オススメ度     ★★★


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