こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ナチスに仕掛けたチェスゲーム

顧客の秘密は絶対に守る。驚異的な記憶力ですべての口座番号を暗記した男は、厳しい尋問にも決して口を割らない。だが、底なしの孤独の中で精神は次第に蝕まれていく。そんな時見つけた希望。物語はドイツ進駐後のウィーン、独学でチェスを覚えた主人公の運命の転遷を追う。公証人として貴族の財産を管理していた。一流ホテルでの監禁は快適ではないが肉体的健康は維持できる。犯罪者ではないので身体に危害を加えられることはない。それでも外部との接触は一切取れず情報も完全に遮断されるうちに、彼の心は少しずつ摩滅していく。一日1本配給される煙草をキレイに並べて日時の経過を知ろうとする彼の姿は、強制労働も拷問もない代わりに何もすることが与えられない究極の退屈がもたらす心理的苦痛をリアルに再現していた。

ドイツの侵略から逃げろという友人の忠告に従わなかったヨーゼフは、土壇場で妻を先に送り出し機密書類を燃やそうとするが、ゲシュタポに連行される。非協力的な彼は “特別処置” を受ける。

ゲシュタポは口座番号を聞き出したい。ヨーゼフが部屋の外に出られるのはホテルの部屋から取調室に行くときしかない。取調室では尋問官に質問されるだけ。末端の監視係に話しかけても返答はない。ドイツの支配で外の世界が確実に悪いほうに流れているのは予想できる。妻の安否も心配だ。永遠の時間に閉じ込められたような感覚の中で、偶然ヨーゼフはチェスの棋譜本を手に入れる。チェスなどまったく知らないヨーゼフだったが、駒と盤を工夫し、棋譜に記されたすべての差し手を理解し脳裏に刻んでいく。希望と意志があれば絶望的な状況でも人間は耐えられるとヨーゼフの行動は訴える。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

逃亡中の客船の中で世界チャンピオンに挑むヨーゼフ。幻覚を見るほど感情は不安定な状態なのに、頭の中は冴えわたっている。チェスしか生きる道がないチャンピオンとチェスに生きる道を開いてもらったヨーゼフ。64升目の盤上には無限の人生が広がっているとこの作品は教えてくれる。

監督     フィリップ・シュテルツェル
出演     オリバー・マスッチ/アルブレヒト・シュッフ/ビルギット・ミニヒマイアー
ナンバー     138
オススメ度     ★★*


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