こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

裸足になって

言語もカルチャーも洗練された欧州の旧宗主国に倣っているのに、古い価値観に退行した社会での生活水準は低いまま。それでも夢をかなえるために日々努力する。物語は、突然の暴力で未来を奪われた少女の再生を描く。ステージで踊る日が迫ってきた。レッスンにも熱が入り自主練も欠かさない。だが、治安の悪い場所にひとりで出かけたせいで思わぬ悲劇に見舞われる。肉体的に受けた大きなダメージ以上に心の傷は深く、身体の健康を取り戻しても言葉は口から出てこない。ところが、同じような苦難や悲しみを背負った女たちとリハビリを共にするうちに、彼女は新たな希望を見出していく。バレエの優雅さから、闘志みなぎるコンテンポラリーな振り付けまで、キレのあるダンスを披露するヒロインの力強いまなざしが印象的だった。

賭け闘羊の帰りに暴漢に襲われたフーリアは重傷を負い、病院で目覚める。しばらくは心を閉ざしていたが、少しずつ手話を覚えコミュニケーションが取れるようになっていく。

戦争で子供を無くしたり、夫に暴力を振るわれたりと、リハビリ仲間の女たちは何らかの形で男から被害を受けた者ばかり。イスラム系の台頭によって女たちの自由や権利は制限され、勇敢だったフェミニスト弁護士まで今や腰が引けている。豊かさを求めて地中海を渡る者もいれば、格差社会は自由競争がもたらしたと主張する暴力的宗教勢力がのさばっている。かつてヨーロッパ各国の植民地だった国々が抱える諸問題が凝縮されたような町での、息苦しい日常。そんな状況でリハビリ中の女たちがダンスを通じて人生に喜びを見出そうとする姿は美しい生命力に満ちていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

逮捕されたはずの暴漢が釈放され、フーリアに嫌がらせを始める。逃げていては解決にはならないと腹をくくったフーリアは暴漢と闘う決意を固める。志半ばで不慮の死を遂げた親友を悼むシーンは、旧弊や宗教的偏見による男権主義に虐げられてきたあらゆる女たちの怒りと、そこからの解放を願う確固たる意志がみなぎっていた。

監督     ムニア・メドゥール
出演     リナ・クードリ/ラシダ・ブラクニ/ナディア・カシ/アミラ・イルダ・ドゥアウダ/メリエム・ムジカネ
ナンバー     139
オススメ度     ★★★*


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