こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

春に散る

「今しかねーんだよ!」と叫んでボクシングに没頭する青年。飢えた野獣のように目をギラギラと光らせている。泥臭い根性論と汗臭いトレーニングは、コスパ・タイパを重視するZ世代の価値観とは対極にある。今どきこれほどまでにハングリー精神に満ちた作品は珍しい。物語は、一度は挫折したボクサーが老いた元ボクサーに教えを乞い、世界チャンピオンを目指す過程を描く。狙いすましたクロスカウンターを習得するために、ひたすら走りサンドバッグやミット打ちを繰り返し、今日一日を完全燃焼しようとする。その純粋な思いに正面から向き合った映像は、手あかのついた展開ながらも大いに引き込まれる。ヒロイズムに走るのではなく、あくまでボクシングの魅力に憑りつかれた男たちの悲哀に焦点を絞っているところに好感が持てた。

有名なボクサーだった広岡の元に押し掛け弟子入りした翔吾は、厳しいメニューを課されても音を上げずにやり抜く。ある日、ジムのホープとスパーリングをして相手をぶちのめす。

元々日本タイトルに挑戦したこともある実力の翔吾。有能なトレーナーと影響力がもっと違った結果をもたらしたと思っている。誰にも負けない自信と自分に妥協しない強いハートも持っている。ビヤ樽運びのバイト中も筋トレを欠かさない勤勉さもある。なによりチャンピオンになるという強烈な目標を掲げ、日々向上心を忘れない。だが、深く物事を考えず短気なところだけは広岡の指導でも直らない。そんな、血のたぎりを抑えきれない主人公を、洗練された身のこなしと鍛え上げられた肉体の横浜流星が圧倒的なリアリティで演じていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

再デビュー後は順調でライバルも倒し世界戦が視野に入ってくる。右目に受けたダメージが危惧されるが、翔吾は試合を強行する。その間、貧困問題や広岡の家族友人などのエピソードが挟まれるが、そういった環境の悪さが、「努力は報われる」というお題目に疑問を突きつけ、夢だけでは生きていけない現実を見せてくれる。ボクシングと人生は似ているのだ。

監督     瀬々敬久
出演     佐藤浩市/横浜流星/橋本環奈/坂東龍汰/坂井真紀/ 小澤征悦/片岡鶴太郎/窪田正孝/山口智子
ナンバー     156
オススメ度     ★★★*


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