こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

バカ塗りの娘

指示されたこと決められたことなら何とかこなせるが、想定外の出来事にはうまく対応できない。都合が悪くなると黙り込む。自己評価も低く将来の夢も持てない。物語は、そんな娘が一念発起して祖父の代から続いてきた漆工芸家を継ぐ決心をする過程を描く。才能がないのはわかっている。業界の未来が暗いのも父の姿を見て感づいている。指先の器用な兄でさえ別の道に進んでいる。その状況で自分にできることはなにかを突き詰めて考えた彼女は、食器以外の漆製品に活路を見出していく。絵の具を練りお椀に丁寧に塗り込む。さらに漆を上塗りして乾かした後は顔が映りこむようになるまで磨きこむ。その精緻な作業を細部まで再現した映像は、伝統工芸に生きる人々の「変わらないために変わり続ける」覚悟を象徴していた。

スーパーでパートをしながら父の工房を手伝う美也子は、家を出た兄がゲイ恋人と結婚すると言い出したのを機に、廃校舎に放置されたグランドピアノの漆を塗り直し始める。

本気で漆職人になりたいと思っているのに周囲はぜんぜん理解してくれない。むしろ、あれこれ理屈を並べて反対しやめさせようと説得する。美也子はうまく言い返せないばかりか、気持ちを伝える適切な言葉すら口にできない。頭の回転は速いほうではない。ただ愚直に漆塗り工程に向き合い父の技術を身に着けようとしている。地味だけれど小さな目標を立てて、それをクリアしていくことで一段ずつ階段を上っていく。美也子の慎ましい生き方は、他人と比較したり競争したりする都会的な人々とは一線を画し、経済的な成功では得られない心の在り方こそが人生を豊かにすると訴える。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

時に校舎に泊まり込み、時に風邪をひいて倒れたりする。雪の降り積もる日も作業に没頭し、ついに美也子はユニークなピアノを完成させる。本来、ピアノのボディ部分の表面は黒一色なのに、彼女はカラフルな装飾を施し打ち捨てられたピアノに新たな生命を吹き込む。その彩りは希望に満ちた美也子の将来を暗示しているようだった。

監督     鶴岡慧子
出演     堀田真由/坂東龍汰/宮田俊哉/片岡礼子/酒向芳/松金よね子/篠井英介/木野花/小林薫
ナンバー     165
オススメ度     ★★★


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