こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ほつれる

妻は愛人と密会している。夫は元妻とまだ情を交えている。お互いに配偶者の不貞を知っている。物語は、不倫略奪婚夫婦が直面する危機を描く。狭いマンションでふたりは寝室を別にしている。会話はよそよそしく、もはや愛は冷めている。それでも夫はもう一度やり直そうと努力している。妻はその期待に応えようとはせずはぐらかすばかり。詰問調にならないように気を遣いながらも理詰めに話す夫に対し、嘘の上塗りをしている妻は言葉を詰まらせる。夫の丁寧な言葉遣いに追い詰められ逃げ場がなくなると問題をすり替えて逆切れする妻の姿は、理性よりも感情が優位に立つ女のわがままと扱いづらさが凝縮されていた。いくらジェンダー平等が叫ばれても、恋愛に関しては男女で気持ちはやっぱりすれ違う。そんな現実が繊細なタッチで再現されていた。

不倫恋人との旅行から東京に戻ってきた綿子は、恋人が交通事故死するのを目撃する。その後、夫・文則と新居の内覧に行く約束をすっぽかし、山梨にある恋人の墓参りをする。

目の前で恋人がクルマにはねられ119番通報するが、それ以上深入りしない綿子。バレてはいけない関係だけに彼の死に背を向けてしまう。本当に愛しているのならすぐに駆け寄って介抱しただろう。少しだけ逡巡するが、やっぱり彼との仲は秘密にする。その程度の思い、だからこそ綿子は罪滅ぼしのためにまだ納骨も済んでいない墓に手を合わせたりする。彼女の言い訳がましい行為はその後も続き、文則を始め周囲のまともな大人たちをイライラさせ混乱させるばかり。こんな女とはなるべく関わり合いになりたくないと思わせる門脇麦の演技がリアリティに富む。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

経済的には不安もなく子育てに忙しいわけでもない。仕事をしていないせいか未来に対する展望もない。その時々の思い付きで行動してしまう綿子は、家族や社会の中で己の立ち位置がわからない。彼女の心の揺らぎは多様化した価値観についていけない現代女性を象徴していた。

監督     加藤拓也
出演     門脇麦/田村健太郎/染谷将太/黒木華/古舘寛治
ナンバー     167
オススメ度     ★★★


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