こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ヒンターラント

祖国のために戦い命からがら帰ってきたのに、待っていたのは人々の冷たい視線。さらに過去の亡霊に命を狙われる。物語は、第一次世界大戦の帰還兵が遭遇する連続猟奇殺人事件を描く。体中に杭を打たれた死体、薔薇鞭で打たれ頭部と指を切断された死体、吊るされたままネズミに足を齧られた死体。すさまじい苦痛をともなう拷問の末に殺されたそれらの死体は復讐のメッセージを発している。その意味を理解した帰還兵のリーダーは次のターゲットを捜し犯人の目星をつけていく。戦災を免れたウィーン、したたかに生き残った者と絶望した者の差は激しい。そんな中、若者たちは労働運動とナチ思想に希望を見出していく。キュービズム絵画のような空間として再現された帝都は、その奇妙な距離感が主人公の心の歪みを象徴していた。

ソ連での抑留生活から解放されやっと復員してきたペルクは、元軍人惨殺事件捜査の協力を依頼される。ペルクは検視官・テレーザの協力のもと、セヴェリンと名乗る若い刑事と共に行動する。

町は復興でにぎわっている。身なりのいい人々が足早に通りを行きかうが、粗末な格好の復員兵は見向きもされない。ペルクは自宅アパートに帰ることができたが、行く当てのない者は救世軍の施設で粗末なベッドとまずい食事に耐えている。いくら敗戦国とはいえあまりにもひどい待遇。警察署に出向いたペルクに向かってかつての上司でもある伯爵はアカと言い放つ。捕虜収容所での地獄を生き延びた者は共産主義に洗脳されていると偏見を持つ。伯爵の心無い暴言には、ソ連共産主義に抱く、資本主義社会の恐怖が凝縮されていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

捜査を進めるうちに、手の込んだ処刑法と被害者の共通点から犯人が自分と同じ収容所にいた人物と確信するペルク。そして自らも襲撃され犯人の正体を知る。その過程で明らかになる、捕虜を虫けら扱いするソ連軍の非情さ。敵に対する憎しみよりも同胞を売った味方に対する恨みのほうがはるかに強いという、人間の複雑な感情が赤裸々に再現されていた。

監督     ステファン・ルツォビツキー
出演     ムラタン・ムスル/リブ・リサ・フリース/マックス・フォン・デル・グローベン/マルク・リンパッハ
ナンバー     170
オススメ度     ★★★*


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