こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

6月0日 アイヒマンが処刑された日

数百万人の同胞をガス室送りにした憎き敵。彼を絞首台に吊るすことで一応の区切りはつくが、その遺体をどう処理するかが問題になってくる。物語は、土葬が風習の国で遺体焼却炉作りにかかわった少年の葛藤を追う。異教徒ゆえに深い事情を知らず、ただ体が小さい子供というだけで雇われた。頭の回転は速く働き者の彼はたちまち経営者に気に入られ、作業グループを仕切り始める。さらに汚れ仕事まで引き受け存在感は増すばかり。いつしかベテラン作業員まで少年を頼るようになる。それでも、世の中で何が起きているかうすうす感づいてはいるが所詮は他人事で関心は薄い。一方で歴史的瞬間への参加の意味をかみしめている大人たちを見て、誇らしい気持ちも沸いている。少年の目を通すことで映画としての視野が広がっていた。

1961年イスラエル、アラブ系のダヴィドはゼブコに雇われ焼却炉製作の仕事に参加する。それは死刑判決の下ったナチス戦犯・アイヒマンの遺体を灰にするための装置だった。

宗教上火葬用の炉はなく、ナチスが作った設計図をもとに焼却炉を作らなければならないゼブコ。彼も作業員たちもみなユダヤ人で複雑な思いを抱えているが、ダヴィッドだけは気前のいい給料に生き生きと働いている。まだホロコーストの記憶が生々しかった時代、思い出すことを拒み感情を抑えている収容所生還者の、口にできないほどの辛酸をなめた苦悩が浮き彫りにされていた。アウシュビッツツアーで自らの体験を語る男に、ユダヤ人団体の女が “忘れない” を強制するなというシーンは、繊細な被害者感情を代弁する。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

刑務所長のハイムは、今や世界中が注目しているなか、アイヒマンの一番近くにいる人物。きちんと刑を執行しその遺体を灰にする任務の重責に押しつぶされそうな日々を送っている。いかに効率的にユダヤ人を “処理” するかに腐心してきたアイヒマンを、最期まで人道的に扱わなければならない皮肉。命令に従わなければならないという共通点を持つ2人の対比が、官吏の悲哀を象徴していた。

監督     ジェイク・パルトロウ
出演     ノアム・オバディア/ツァヒ・グラッド/アミ・スモラチク/ヨアブ・レビ/トム・ハジ
ナンバー     169
オススメ度     ★★★*


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