こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

アンダーカレント

“人を分かるとは?” と問われて答えられないヒロイン。夫のことを知っていると思っていたのに何も理解していなかった。彼がついたへたくそな作り話さえ見破れなかった。一緒に暮らしていたのに、信頼し合っているはずだったのに、結局は見知らぬ他人だった。さらに彼女は、自分自身の気持ちさえよく把握してなかった。物語は、突然失踪した夫の消息を探偵に調べてもらった女が陥るアイデンティティクライシスを描く。いつかは帰ってくると楽観していた。だが彼が語った思い出はすべて偽物だった。初めて聞かされた夫の経歴に、彼女は驚きたじろぎそれでも真実を知ろうとする。かくも複雑で繊細な人の心、そして夫に向けた恨みの刃はそのまま己に返ってくる。封印したはずの記憶が悪夢となって蘇り彼女を苦しめるシーンは、何者も過去から逃れられないと訴える。

休業中だった銭湯の営業を再開させたかなえは、ボイラー技士の堀を住み込みで雇う。単身で流れ者の堀は淡々と仕事をこなすが身の上話は一切口にしなかった。

学生時代の友人の紹介で探偵の山崎に夫の居場所を捜してもらうかなえ。人を食った態度な上、歯に衣着せぬ物言いをする山崎を最初はうさん臭く感じていたかなえだったが、彼の言葉は無礼なようで的を射ていると気づく。夫に関する重要な調査報告をカラオケボックスで行い、ショックを受けたかなえを尻目にひとりマイクを握って歌い出す山崎の、変人だが人情に篤いという癖のあるキャラをリリー・フランキーが卒なく演じていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

そして蘇るかなえの黒歴史。夫の虚に驚きと嫌悪感を抱きながらも、自らもまた嘘に塗れた人生を送ってきたという苦悩と葛藤。彼女とは対照的に、長い時を経てもやるべきこことやる堀の哀しみをたたえた瞳が印象的だった。ただ、かなえや夫の本性が明らかになっていく過程は間を取りすぎたゆえに弛緩した映像になってしまった。話の流れも会話のキャッチボールも、もう少しテンポよく展開していれば、ため息が漏れることはなかったと思う。

監督     今泉力哉
出演     真木よう子/井浦新/リリー・フランキー/永山瑛太/江口のりこ/中村久美/康すおん/内田理央
ナンバー     184
オススメ度     ★★*


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