こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

知能も感覚もなくもちろん思考もない。全身麻痺で体も動かせない。ただ栄養を注入されて生命維持されているだけの肉塊、それを人と言えるのか。疑問を持った青年は自分なりの正義を確立し、生きる価値がないと判断した者を次々と手にかけていく。物語は、障害者福祉施設で働き始めた作家が直面する介護現場の現実を描く。体が不自由でも知的障害があっても、少しの介助である程度自立できれば問題はない。だが、言葉を理解できない入所者は人間らしい振る舞いをしない。なんの生産性もなく家族にも見放されている入所者を生かしておくことにどれほどの意味があるのか。そんな考えは間違いだとわかっている。それでも、嘘ときれいごとで塗り固められた真実の前では、青年の行動にも理があるのではないかとこの作品は問いかける。

作家志望の陽子、親切な好青年・さとくんらと働く洋子。鍵のかかった窓のない部屋で寝たきり生活を送る入所者と同じ生年月日と知り、彼女の世話をするようになる。

大部分はおとなしく言うことを聞く入所者たちだが、時に獣のように暴れる入所者がいる。意思の疎通ができない者に強硬手段を取る職員がいると、それは洋子の目には虐待と映る。入所者のために紙芝居を作ったりするさとくんもいつしか優生思想に染まり、心がない入所者に希望のまったくない人生を無理やり押し付けるのは決して彼らを幸せにはしないと確信し始める。生きる権利などと耳に心地よい言葉は、この施設ではむしろ呪いでしかない。洋子とさとくんの間で交わされる会話は、身体・知的の二重障害者を安楽死なせてあげるのはやさしさではないかと思わせる説得力があった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

政治家や皇族や有名タレント・スポーツ選手の障害者福祉施設慰問がよく報道される。彼らは “障害に負けず一生懸命生きている人々” の応援はしても、施設が隠ぺいしている入所者には会わせてもらえない。正論を言う洋子と本音をのぞかせる洋子が鏡像になるシーンは、研ぎ澄まされたナイフのように深く鋭く心に突き刺さった。

監督     石井裕也
出演     宮沢りえ/磯村勇斗/板谷由夏/モロ師岡/鶴見辰吾/原日出子/高畑淳子/二階堂ふみ/オダギリジョー
ナンバー     188
オススメ度     ★★★★*


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