余命2か月と宣告された。家族はまったく気づかいを見せてくれない。ならばとばかりに思いっきり無駄遣いをするが、心は満たされないまま。物語は、末期がんと診断された女が高校時代に思いを寄せた先輩を訪ねる旅を描く。なんとか夫を説き伏せて一緒についてきてもらった。ふたりきりの旅行など新婚以来。ほとんど愛は冷めていると思っていたのに、思い出を手繰るうちに人生が輝いていた時代がよみがえる。あの頃、確かに夫はやさしかった。自分のために体を張ってくれた。なのに今では妻でも母でもなく、家庭内では女中扱い。家でも職場でもガミガミ怒鳴り散らす前時代的な男尊女卑オヤジが急に歌って踊り出すミュージカルならではの落差が楽しい。「ゴースト」のまねをするカップルは世界中にいたんだと、懐かしさと共感を覚えてしまった。
高校時代の元カレ・ジョンウにもう一度会いたいと願うセヨンは夫・ジンボンと共に母校を訪ねるが、個人情報保護の壁に阻まれる。近くの写真館で彼の消息を尋ねると、引っ越し先を教えられる。
久々にふたりきりでホテルに泊まるセヨンとジンボン。出会った頃はお姫様扱いしてくれた。兵役を終えるまで待つというと永遠の愛を誓ってくれた。ところが今のジンボンはすっかりさえないオッサン。いったいいつ気持ちが冷めたのだろう。記憶を手繰るうちに現実とのギャップが身に染みるセヨン。一方のジンボンはセヨンと行動をするうちに少しずつ変わってくる。言葉の端々に皮肉を含ませながらも、本心ではセヨンの願いをかなえてやりたいと思っている。乙女心を引きずるセヨンと胸のときめきを忘れたジンボン、中年期も終盤に差し掛かったふたりの恋の受け止め方が対照的で興味深かった。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
細い糸を手繰り寄せるようにジョンウの消息をたどるセヨンとジンボン。そして知る意外な真実。過去は手が届かない。未来は残り少ない。ならば、今生きている現在を死ぬまで愛したい。そんなセヨンの思いに応えようとするジンボンは見かけよりもずっとクールだった。
監督 チェ・グクヒ
出演 リュ・スンリョン/ヨム・ジョンア/パク・セワン/オン・ソンウ/シム・ダルギ
ナンバー 147
オススメ度 ★★★*