こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

隣人X 疑惑の彼女

見た目は人間そのもので行動様式もまったく同じ。その生物は今や社会に溶け込み、地球乗っ取りのチャンスを虎視眈々とうかがっている。と、一部の人間は信じている。物語は、他惑星からの難民を受け入れた人類が直面する疑心暗鬼の日々を描く。彼らは人間をトレースしてその外見を手に入れるという。戸籍もあり、市井の人々として暮らしている。暴力的な事件など一切起こさず目立つことを嫌っている。だからこそ、この静かな侵略に人間たちは脅え、彼らを特定し排除しようとする保守的な週刊誌とそれを支持する人々の声が大きくなっていく。多様性が叫ばれる中でも、異質で正体不明のものに対する恐怖は払拭できない。その感情がいつ暴走するかわからない危うさがリアルに再現されていた。「本当に大切なものは目に見えない」という言葉が胸に刺さる。

日本政府は難民Xを受け入れるが、国民の不安は増すばかり。週刊誌カメラマンの笹はXの疑いがある良子に接近して、彼女がXである証拠をつかめと編集長に命じられる。

低賃金労働を掛け持ちしながら慎ましくひとり暮らしをしている良子。法やマナーを守り同僚への思いやりもある。思い切って声をかけ交際するようになっても、彼女の誠実な人柄に笹はかえって恋心まで抱くようになる。仕事として接触したのに本末転倒、笹はむしろ自身の人間性を自身の良心から問われるようになっていく。ひっ迫する経済事情も拍車をかけ、笹の苦悩は深まるばかり。「人間」が働いている週刊誌編集部ではコンプラ無視の怒声が飛び交っているのに、「X疑惑者」が勤務するコンビニや飲食店では失敗した同僚をフォローする優しさがある。「人間」の精神的な優位性に疑問を突き付ける対称性が印象的だった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

Xには人間を決して傷つけない固有性がある。一方で人間は平気で他人を傷つける言葉を口にする。知的生命体として地球にふさわしいのはどちらであるのかは歴然。それでも、善悪長所短所雑多な精神が入り混じった人間のほうが、個人的には魅力的に思えた。

監督     熊澤尚人
出演     上野樹里/林遣都/リン・イレン/野村周平/川瀬陽太/嶋田久作/原日出子/バカリズム/酒向芳
ナンバー     166
オススメ度     ★★★*


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