こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

SISU シス 不死身の男

体にめり込んだ金属片を指で引っ張り出し、深い創傷は針金で縫合する。もちろん麻酔はない。その激しい痛みはまだ戦える証。物語は、戦争によって祖国と家族が蹂躙された男が単身侵略者に立ち向かう姿を描く。地平線の彼方まで下草しか生えないフィンランドの荒野でやっと見つけた幸運。だが、敵戦車隊に見つかりそれを奪われそうになると、数人の相手を瞬殺する。殺人術の手際の良さとダメージを受けてもすぐに回復するタフネス、いつしか戦車隊は追う側から狩られる側になり、ひとりまたひとりと命を落としていく。7人の部下を失った隊長が上官に報告すると “その程度の被害ならラッキー” と忠告するシーンが男の無双ぶりを象徴していた。過剰な暴力と悪を討つ展開はタランティーノの模倣だが主人公の圧倒的な存在感は大いに魅力的だった。

元特殊部隊隊員のコルピは掘り当てた黄金を運搬中ドイツ軍小隊と遭遇、黄金を奪われそうになり逆襲に転じる。ドイツ軍のトラックには地元の女数人が拉致されていた。

コルピは銃器を携帯していない。武器になりそうなのはナイフとツルハシだけ。それでも、ドイツ兵の足をへし折り首を絞め、白煙の中に潜んで数的・装備的不利を逆転させる。ドイツ軍の一斉射撃には砂金皿で身を守り、追い詰められると川に逃げる。潜航するドイツ兵ののどを切り裂き気道から空気を奪って水中に滞在し続けるアイデアは斬新。その後、爆弾で気を失い捕らわれてしまうが、絞首刑が執行されても太い首はロープに耐え支柱が折れる。コルピの超人的に強靭な肉体と精神力には、奇妙な懐かしさを覚えた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

そして、離陸する軍用機にツルハシを突き刺して飛び乗るコルピ。もしかしたらコルピは死なないのではなく死ねない呪いでもかけられているのか。洗練されたヒーローよりも泥臭い人間兵器のほうがカッコよく見えるのは、デジタル化社会においてアナログ機器が見直されている現象に似ている。トラックを奪った女たちがドイツ兵を皆殺しにするシーンは清明カタルシスを覚えた。

監督     ヤルマリ・ヘランダー
出演     ヨルマ・トンミラ/アクセル・ヘニー/ジャック・ドゥーラン/ミモサ・ビッラモ/オンニ・トンミラ
ナンバー     197
オススメ度     ★★★


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