彼らの死が無駄だったと知っている。彼らもそうなるとうすうす感づいているが決して口には出さず、己の犠牲が祖国と家族を守ると無理やり信じようとしている。物語は、降伏直前の日本にタイムスリップした女子高生が出撃命令を待つ特攻隊員と交流するうちに、自分の人生を見つめ直していく過程を描く。命をなによりも大切にする。自分の生きたいように生きる。そんな当たり前の価値観がまったく通じない。戦争に勝つためにあらゆる自由は制限され、軍人だけでなく市民までが窮屈な生活を強いられている。だが、死が目の前の特攻隊員は底抜けに明るく、残された時間をできる限り楽しもうとしている。カラ元気なのはわかっている。それでも、人々の記憶の中でカッコよく生き続けようとする彼らの姿が切なく哀しい。
日常に鬱憤をためている百合は母と大ケンカして家出、近所の防空壕跡で一夜を過ごす。翌朝、見知らぬ街の風景の中で気分が悪くなり、彰という若い軍人に助けられる。
彰は食堂を営むツルのところに百合を連れてき、行く当てもない百合はツルの店を住み込みで手伝う。女子高生の制服からモンペに着替えるとすぐに百合は環境の変化になじみ、むしろTVで得た断片的な情報を確認するかのようにこの世界の人々との交流を深めていく。どこから来たのかは一切口にしない。後に相思相愛になる彰にも打ち明けない。自分の甘さに気づいたのか、元の時代に戻ろうとはせず、むしろ骨を埋める覚悟をしているよう。この百合というヒロインの設定がシンプルかつユニークで科学的な屁理屈を並べるSFとは一線を画していた。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
彰たちの出撃日が決まると、百合はいてもたってもいられなくなる。脱走を試みる隊員に理解を示したりもするが、彰には思いを伝えるだけでそれ以上は “過去” を変えようとはしない。草野球の捕手がマスクなしだったり、空襲で燃え盛る街でピンチになった百合の前に彰が突然現れたりと、ディテールにツッコミどころも多いが、百合が説く命の大切さと彰の思いは胸を熱くした。
監督 成田洋一
出演 福原遥/水上恒司/伊藤健太郎/嶋崎斗亜/上川周作/小野塚勇人/出口夏希/中嶋朋子/坪倉由幸/松坂慶子
ナンバー 223
オススメ度 ★★*