こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

百花

母が少しずつ記憶を失っていく。徘徊を繰り返し幻覚を見ているようだ。治療法はなく暖かく見守るしかないと医者に言われる。それなのに突き放した態度をとってしまう。物語は、アルツハイマー認知症の母とひとり息子の葛藤を描く。女手一つで育ててくれて感謝している。でも、許していない過去がわだかまっている。母は忘れてしまったのかもしれない。だが、息子の心からはいつまでも消えない。血のつながった母子だからもちろん愛してはいる。だからこそ余計に許せない。その関係はどちらかが死ぬまで続く。そんな、微妙にこじれた繊細な感情を原田美枝子菅田将暉がリアルに再現する。母がせっかく作ってくれた晩ごはんを一口つけただけで立ち去る息子の背中は、彼が受けた仕打ちに対する怒りを象徴していた。

症状が悪化した母・百合子を施設に預けることにした泉は、百合子の部屋を整理しているうちに彼女が認知症を自覚していたと知る。そしてベッドの下に隠してあった古い手帳を見つける。

スーパーで卵のパックを買い物かごに入れた後、走っている子供たちに注意する。一瞬意識が飛ぶとまた同じことを繰り返す。百合子が見る世界は現実と妄想の境界線がなく、いつしか過去の記憶や叶えられなかった願望がごちゃ混ぜになっている。そういう状態になったことを百合子は覚えているのだが、もはや何が事実だったのか思い出せない。人格が壊れていくと自ら気づきながらも、しばらくするとそれすらすぐに忘れている。それでも泉は百合子に対しあくまで一定の距離を取る。自分を捨てた母親に、泉はさめた気持ちしか抱けない。いつまでも晴れない、いつまでも前に進まない。堂々巡りの映像はどこまでも重苦しい。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

「半分の花火が見たい」という百合子のために、泉は湖面で炸裂する花火大会に連れていく。迷子になったのは百合子なのか泉なのか。長回しのショットで綴られた、向き合うべき罪をきちんと清算してこなかった母子の思いは、語り口もテンポも最後まで冗漫だった。

監督     川村元気
出演     菅田将暉/原田美枝子/長澤まさみ/永瀬正敏
ナンバー     170
オススメ度     ★★


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