笑顔で旅立った息子は無残な死体になって帰ってきた。なぜそんな目に合わなければならなかったのか、母親は悲しみを乗り越え怒りを糧とし、息子を傷つけた者たちに罰を受けさせるために立ち上がる。物語は、黒人の権利が制限されていた時代の米国、社会にはびこる人種差別と闘った女の勇気と行動力を描く。戦死した夫との間にできたひとり息子に夢と希望を託し溺愛した。親戚の家に遊びに行くだけなのに過剰なまでに心配し、最後まで旅行に反対した。何度も白人に対する言動に気遣うよう注意した。だが、嫌な予感は当たってしまった。一応自由な市民として豊かな消費生活を送る北部の黒人と奴隷時代の価値観が残る中でひっそりと生きる南部の黒人の暮らしぶりが、広い米国の中では人権意識にもグラデーションがあることを示す。
シカゴに住むメイミーは息子のボーをミシシッピ州に住む親戚の元に送り出す。ボーは白人雑貨店経営者の妻・キャロリンを侮辱すると、深夜雑貨店主らが報復のためにボーを拉致する。
メイミーはリンチを受けた跡も生々しいボーの遺体をマスコミに公開し、いまだに南部に根強く残る黒人迫害の実態を明かす。その上で世論を盛り上げようとするが、一部の黒人活動家を除いて反応は薄い。メイミーは白人ばかりのオフィスで事務職に就いているくらいだから頭脳明晰なのだろう。それでもまだ彼女ひとりの力で世界を動かすほどには時は熟していない。ミシシッピでの裁判でも陪審員・裁判官とも被告に不利な判決を出す意図はなく、白人を不快にさせた黒人は殺されて当然という空気が蔓延している。このあたり、当時の黒人が受けた精神的苦痛がわかりやすく再現されていた。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
映画では、ボーはキャロリンに軽口をたたき口笛を吹いただけだった。だが、証人台に立ったキャロリンの証言ではボーは明らかにセクハラをしている。真相は藪の中のはずなのに、キャロリンが偽証しているような印象操作されているところが鼻についた。
監督 シノニエ・チュクウ
出演 ダニエル・デッドワイラー/ウーピー・ゴールドバーグ/ジェイリン・ホール/ショーン・パトリック・トーマス/ジョン・ダグラス・トンプソン/ヘイリー・ベネット
ナンバー 226
オススメ度 ★★*