こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

エルヴィス

かかとを浮かせたまま膝を開閉し、腰をくねらしながら歌うピンクスーツの男。大人たちは大袈裟に顔をしかめ、若い女たちは履いていたパンツを脱いでステージに投げる。客席を覆う熱狂はもはやだれも止められない。旧態然とした米国音楽界に黒人音楽の要素を取り入れた白人主人公が殴り込みをかけるシーンは、驚きと戸惑いをもたらす斬新なエンタテインメントは必ずヒットするという老人の言葉を裏付ける。物語はロックンロールの元祖がたどった栄光と転落の日々を追う。黒人地域で育ったおかげで彼らの音楽を吸収できた。白人がパフォーマンスすることで唯一無二の存在になれた。ところが、強欲な男と契約してしまったせいで、歌う自由まで奪われてしまった。クリスマスソングの代わりに発表した新作が、彼の崇高な魂を象徴していた。

カーニバル興行主・パーカーはライブハウスで歌うエルヴィスに天啓を受け、マネージャーとなる。次々とヒットを飛ばすが、彼のセクシーなダンスは白人保守層から反発を受ける。

白人よりも黒人街のライブハウスで黒人たちと一緒にいる方がエルヴィスの心は休まる。差別がまかり通り黒人が劣等遺伝子を持つと主張する政治家がいた時代、エルヴィスは秩序を乱す存在として当局に目を付けられる。全国ツアーをするほどの人気者になると黒人の姿は取り巻きから消えるが、彼自身は人種的偏見もない代わりに愛着もなかったのだろう。キング牧師の暗殺はショックだが、ロバート・ケネディの死にはより深刻に落ち込んでいる。ベトナム戦争公民権運動に揺れた'60年代、ロックと映画のスターとして立ち位置を彼自身も測りかねたのだろう。大佐ことパーカーは、エルヴィスの迷いを見抜き取り除くことで彼をコントロールし、搾取していく。公的な存在証明がなくてもハッタリだけで芸能界を生き残っていく、いかにも20世紀的なマネジメントが印象的だった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

その後、ドラッグに溺れ身を滅ぼしていくエルヴィス。短い生涯だったからこそ伝説になりえたのは確かだ。

監督     バズ・ラーマン
出演     オースティン・バトラー/トム・ハンクス/ヘレン・トムソン/リチャード・ロクスバーグ/オリビア・デヨング/ションカ・デュクレ
ナンバー     121
オススメ度     ★★★


↓公式サイト↓
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