こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

シン・エヴァンゲリオン劇場版

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赤錆びて人影もないパリの街に急襲をかける艦隊と迎撃する小型兵器。人型兵器を操る少女は雲霞のごとき敵をひとりで引き受け強力な火器と変幻自在の飛行技術でせん滅する。冒頭から、受容しきれない情報量の映像に目を見開き瞬きするのも忘れて見入ってしまった。物語は、人類を新たなステージに引き上げようとする指導者と、反乱軍に加わる息子の葛藤を描く。地球を人の住めない環境にしてしまった責任を深く感じている少年は生きる意欲も死ぬ勇気もなく感情を喪失している。彼と一緒に保護された少女型クローンは言葉の意味を覚えて新しい世界になじもうとしている。無気力な彼と命の意味を見出そうとする彼女、対照的なキャラ設定とその相関性の破綻が、この作品の世界観のさらなる深化を予感させる。

大災害で文明が後退し自給自足の村に保護されたシンジは、名無しの少女と交流するうちに心を取り戻していく。彼女が消滅したのを機に最終決戦に向かう反乱軍の戦艦に乗船する。

戦艦は南極にある武装組織・ネルフ本部を攻撃する。ネルフの司令官・ゲンドウはシンジの父。倒すべき敵が父という設定は「スター・ウォーズ」に似て、知識と経験と信念を兼ね備えた父が、未熟だが自分を越える可能性を持つ息子を後継者に導こうとしているようにも見える。一方で、大災害をもたらした張本人としてシンジは戦艦の乗組員から白い目で見られている。それでも艦長の信頼を受け、決死の任務に就く。このあたりシンジを取り巻く人間関係と思惑が複雑に絡み合い、敵味方に別れて戦わなければならなかった親子の哀しみに奥行きを持たせている。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

全人類の魂の浄化を企むゲンドウを追って、エヴァ8号機を操るシンジはマイナス宇宙に突入する。そこは物理学が通用しない虚構、物質と反物質、時間と空間が絡み合う多次元のようでもある。もはや思考に意味はなく、スクリーンからほとばしる圧倒的なビジュアルとサウンドに身を浸すばかり。訳は分からずとも、2時間半の上映時間は短く感じられた。

監督  庵野秀明
出演  緒方恵美/林原めぐみ/宮村優子/坂本真綾
ナンバー  40
オススメ度  ★★★*


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https://www.evangelion.co.jp/

太陽は動かない

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捕虜になった同僚を救出するために敵のアジトを急襲する。古いゴミ収集車で逃走するも、追手は強力な火器を持ちたちまち迫ってくる。スラムっぽい街から道路が整備された中心街まで繰り広げられるカーチェイスはロケならではの迫力に満ちていた。物語は、次世代エネルギーのカギを握る技術の争奪戦を描く。野望を秘めた中国人起業家、食い物にされていることに気づいた日本企業重役、日本を追い出された発明家。エージェントたちはそれぞれの立場で彼らの情報を奪い合う。破壊や殺傷も必要とあらば許可されているエージェントたちの、命がけのアクションには手に汗を握りっぱなしだ。展開の圧倒的な速さに、ストーリーを追うことを忘れ思考停止に追い込まれてしまった。仲のいい友達を親友と呼べなかった少年時代の葛藤が切ない。

日本のスパイ組織・AN通信の工作員・高野と田岡はブルガリア・ソフィアで山下の奪還に失敗した後、太陽光エネルギーの独占を狙う中国企業の陰謀を阻止するためにウィーンに向かう。

エネルギープラントを巡って暗躍する韓国人エージェントとの関係を整理できないまま、山下の情報をもとに中国企業が建設中の大規模エネルギープラントに潜入を図る鷹野と田岡。遮蔽物がほとんどないタクラマカン砂漠にある施設にヘリコプターで接近するのは目立ちすぎだと思いきや、案の定すぐにロケット弾で撃墜され鷹野は捕らえられる。このあたりもう少し緻密な構成にしていれば、体内爆弾のタイムリミットとの戦いに頼らなくてもスリリングにできたのではないだろうか。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

並行して語られる鷹野の少年時代のエピソードは、親を失って組織しか頼れない子供たちの、殺し屋になる運命を受け入れざるを得ない哀しみに溢れている。特に初恋の少女との交流は涙を誘う。同じ境遇の同級生と更衣室を覗き「ケツを見た」かどうかでじゃれ合うシーンは、鷹野が生き残るうえでの最高の伏線になっていた。ただ、心臓に爆弾を埋め込めば裏切りは防げても組織への忠誠心は生まれないと思うが。。。

監督  羽住英一郎
出演  藤原竜也/竹内涼真/ハン・ヒョジュ/ピョン・ヨハン/市原隼人/南沙良/日向亘/加藤清史郎/勝野洋/鶴見辰吾/佐藤浩市
ナンバー  39
オススメ度  ★★★


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https://wwws.warnerbros.co.jp/taiyomovie/

NO CALL NO LIFE

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学校帰りの夜道、ふと見つけた蛍を追うふたり。飛び続けながら短い命の炎を燃やす、そのはかない光に自分たちに重ねている。物語は、親の愛を知らずに育った高校生男女が強烈にひかれあい、生き急ぐように恋をする姿を描く。スマホに残された過去からのメッセージは届かなかったSOS、現在の彼女は彼と出会ったことで償いをしようとする。彼女が受け取ってくれたと知らずに、彼は好意を抱いてしまう。決して偶然ではない、運命のいたずら。お互いが足りないところを補い合うのではなく、似た者同士が心に欠落を抱えたまま走り出す。止めてくれる大人はいない。小さなアパートで息をひそめるふたりは、どん詰まりの未来しかない若者の切なさに満ちていた。

高校3年の有海は不良と噂されている春川と知り合う。春川は同じ高校の違うクラス、春川に強引に誘われるうちに有海は彼のマンションに泊まるようになる。

豪勢な部屋にひとりで住んでいる春川は母親からカネをせびって暮らしている。もともと母親としての責任は放棄していて春川に対する愛情はない。すさんだ生活をしている割には飲酒喫煙程度の不良、そんな春川に似ていると、有海はいとこに言われる。そして思い出してしまった封印していた記憶。やはり春川と同類だと気づいた有海のショックは、一方で初めて理解しあえる人に会った喜びでもある。触れるだけで壊れてしまうほど繊細な有海の感情がリアルに再現されていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

はずみで教師を刺してしまった春川は有海と逃亡、空き家になっている小さなアパートで息をひそめて暮らし始める。すぐに警察に見つかるのはわかっている。それでもあえて考えないで一緒にいる瞬間を大切に寄り添うふたり。悪あがきは精いっぱいの抵抗、居場所のない彼らの気持ちが痛切だった。

監督  井樫彩
出演  優希美青/井上祐貴/犬飼貴丈/小西桜子/山田愛奈/駒木根葵汰/桜井ユキ
ナンバー  38
オススメ度  ★★*


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http://nocallnolife.jp/

野球少女

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幼馴染の男子よりも中学の時まではうまかった。なのに高校で身長も技量も抜かれた。やっぱり女子は体格で劣り、スピードもパワーも男子にかなわない。でも、プロ野球選手になるという意志に妥協はない。物語は、高校の野球部で投手を務めた女子選手がプロ球団のトライアウトに挑戦する姿を描く。誰も本気にしてくれない。トライアウトも最初は門前払い。それでも、毎日夜遅くまで自主練していると力になってくれるコーチが現れる。球速はいくら努力しても伸びない。ならば変化球で勝負と握りを変えてみる。階段をしゃがみ歩きで昇りボールが血に染まるまで投げ込む。努力と根性を前面に出し己を追い込む彼女の闘いは、“スポーツを楽しむ” などと口にするアスリートとは違う悲壮感が漂い、「巨人の星」のテーマ曲を思い出させるほど古風だ。

“天才少女” と呼ばれたスインは卒業後にプロを目指すと周囲に宣言、部活動引退後も練習に励む日々。新任コーチ・ジンテは彼女の夢をかなえるために伝手を頼ってトライアウトを受けさせる。

スインの父は失業中で、両親は野球を続けさせる余裕はない。カツカツの生活に母は就職させようとする。せっかく練習したナックルもあっさり打たれ、一度は心が折れるスイン。だが、工場勤めは自分に合わないとすぐに投げ出してしまう。そして母やコーチが見守る前で、キャッチャーが捕れないほど磨き上げたナックルでプロの選手から三振を取る。彼女の愛用はデサントのウエアにZETTのグローブ、韓国野球界では日本製品不買運動が起きていないところに妙に安心した。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

男たちをきりきり舞いさせる荒唐無稽な展開にせず、リアリティを重視した画作りは説得力がある。ただ、やっぱり性別の壁を乗り越えるのは無理を感じる。政治やビジネスの世界では男女平等が叫ばれ、女性を一定の割合で組織の構成員にしなければならなくなった。野球やその他の団体球技もそのうちプレーヤーのうち何割かは女子にするなどというルールができるかもしれない。見たくないけれど。。。

監督  チェ・ユンテ
出演  イ・ジュヨン/イ・ジュニョク/ヨム・ヘラン/ソン・ヨンギュ/クァク・ドンヨン/チュ・ヘウン
ナンバー  37
オススメ度  ★★★


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https://longride.jp/baseballgirl/

リーサル・ストーム

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気の重い任務に向かった警官はいきなり発砲される。賊は自動小銃武装したプロ集団、腰の拳銃だけではとても歯が立たない。外は大嵐で無線は通じず、応援を呼べない。物語は、追い詰められた状況で中層アパートに閉じ込められた人々が、有名絵画を狙う強盗集団と闘う姿を描く。絵のありかを知る老人は保護した。避難を拒む老人はもうひとり、元警察署長の彼は銃器の扱いにたけた力強い味方。降りしきる雨、いつ遭遇するかわからない敵。まるで戦場のような緊迫感の中、彼らは生き残るための戦術を練り、ひとりずつ敵を倒していく。非常事態下での犯罪はカムフラージュしやすく、悪党どもは大胆な行動に出られる。人を殺しても派手な破壊をしても発覚は遅れる。そんな危険をこの作品は警告する。

やる気のない警官・コルディーロは相棒のペーニャとともに避難勧告に向かった先のアパートで、ドイツ人、元警察署長のレイと介護する娘・トロイ、ペットを飼う黒人らと孤立する。

厳重にカギがかけられた部屋の地下金庫に名画が隠されていると知った強盗団が押しかけ、いきなり銃撃戦になる。コルディーロはトロイと行動を共にしつつ反撃する。ペーニャはレイと武器を調達し、強盗団を次々と倒していく。もともと反撃を想定していなかったのだろうか、強盗団はボスのジョン以外は練度が低い。それでも役立たずには容赦なく制裁を加えるジョンに、部下たちは恐れをなして服従している。狭い廊下や階段で繰り広げられる銃撃戦は短いショットの連続で細かい状況がよくわからず、ごまかされているような気がした。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

メル・ギブソン扮するレイが期待したほど活躍しないまま銃弾に倒れ、ペーニャはジョンの人質となる。そしてジョンは目的の名画にたどり着くが、当然悪党は死ぬ運命にある。ペットを警官の制服に襲い掛かるよう調教したという黒人の話も、伏線としては見え見えだっただけに、もうひとつ斬新なアイデアを見せてほしかった。

監督  マイケル・ポーリッシュ
出演  メル・ギブソン/エミール・ハーシュ/ケイト・ボスワースケイト・ボスワース/デビッド・ザヤス
ナンバー  36
オススメ度  ★★


↓公式サイト↓
http://klockworx-v.com/lethalstorm/#Intro

MISS ミス・フランスになりたい!

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ずっと本心を抑えて生きてきた。バカにされても耐えるしかなかった。でも、夢を叶えた幼馴染と再会した時、彼は己のあるべき姿をもう一度見つめなおす。物語は、少年の頃「ミス・フランスになりたい」と宣言して笑われた主人公が周囲の協力を得て夢にチャレンジする過程を追う。シェアハウスの仲間たちは変人ばかりだけれど大賛成、どうすれば女らしく自己表現できるかを教えてくれる。ボクサーでもある友人は自信こそが最大の武器と、メンタルを鍛えてくれる。そしてエントリーした地区予選。髪を整えメークを施しコルセットでくびれを作りハイヒールを履く彼は、どの候補者よりも女性的。外見のみならずマナーや心遣いまで美しさを追求するコンテストの存在意義に疑問を突きつける。“女らしさ” とは、女にしか持ちえない美徳なのかと。

フランス1の美女を目指すアレックスは女装売春夫・ローラの指導でみるみる変貌していく。予選会で参加した動機を問われ、司会者に媚びることなく女性蔑視への抵抗と答える。

まだまだセクハラ・パワハラ男が幅を利かせている。女たちは “non” と言えない。一方、ジェンダーフリーに理解を示さないのはたいてい男と体験的に知っているアレックスは、はっきりと批判を口にする。ところがその主張の正しさが評価され、アレックスはパリ首都圏地区の代表に選ばれる。そして集った、フランス16地区から集まった美女たち。彼女たちは「ミス・フランス」にふさわしい振る舞いを身につけるための合宿に参加する。その間、男の体を隠し続ける苦労もあるが、アレックスはむしろ他の候補者と打ち解けないことを指摘され落ち込む。自分に偽らずにいると周囲をだまし続けなければならない。アレックスの苦悩と葛藤がリアルに再現されていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

そして紆余曲折を経たのちの決勝の舞台。アレックスの大胆な行動に賛同する拍手が大勢を占める。主催者側のディレクター・アマンダもむしろその変化を歓迎している。“女らしさ” という価値観が逆転する作品だった。

監督  ルーベン・アウベス
出演  アレクサンドル・ベテール/パスカル・アルビロ/イザベル・ナンティ/ティボール・ド・モンタレンベール/ステフィ・セルマ
ナンバー  35
オススメ度  ★★*


↓公式サイト↓
https://missfrance.ayapro.ne.jp/

迷子になった拳

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ほとんどの打撃系格闘技が禁じている技が許される。グローブをつけずバンデージを巻いた拳で殴り合う。流血や骨折は当たり前、打ちどころが悪ければ即入院。過酷で過激で残酷なミャンマー発祥の格闘技・ラウェイ。カメラはラウェイの魅力に憑りつかれた2人のファイターに密着、彼らのかなわぬ夢を共に追う。元体操選手だった男は鍛え上げた肉体を武器に新たな地平を目指すが、挫折を繰り返す。一度格闘技を離れていた男は、本格的な復帰を望むが立ちはだかる障壁は高い。2人とも練習で流した汗の量が結果につながらない。彼らなりには精一杯頑張っているのだろう。それでも試合前の調整に失敗するなど失態を繰り返す。ある意味、社会から弾かれた男たちがもがきながら自分探しをしている姿は、無様であるがゆえに人間らしい。

競技人口の少ないラウェイに転身した金子はミャンマーで武者修行に打ち込むが、現地の一流選手には歯が立たない。日本で体重差のある相手と対戦するが、その試合が物議をかもす。

日本では他格闘技から「ラウェイルール」での参戦がほとんど。それゆえ試合でラウェイの精神を軽んじるようなふるまいがあったりする。主催団体が複数存在するなど選手とは無関係なところで泥仕合が繰り広げられるなど、選手を取り巻く環境もまだまだ厳しい。きちんとしたマネジメントを受けていない金子は立場が弱くほとんどフリーター扱いだ。取り上げられてはいなかったが、食えるほどのギャラはもらっていないはず。それでもラウェイにしがみついているのは、他の道に進む勇気がないから。金子の母は彼の甘えを見抜ききつい言葉を投げつける。そんな覚悟のない男の悲哀をカメラは容赦なく掬い上げる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

一方、復帰組の渡慶次は契約体重を守れないままリングに立つ。本来失格のはずが、興行側は強引に戦わせる。試合後、トレーナーからきつい叱責を受ける渡慶次。次々と若い選手が台頭してくる格闘技の世界で、モチベーションを保つのは至難の業であると渡慶次の背中は物語っていた。

監督  今田哲史
出演  金子大輝/渡慶次幸平/ソー・ゴー・ムドー/ロクク・ダリル/浜本“キャット”雄大
ナンバー  24
オススメ度  ★★★


↓公式サイト↓
http://lostfist.com/