こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

沈黙のレジスタンス ユダヤ孤児を救った芸術家

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親を殺されたトラウマと見知らぬ異国に送り出された不安で、孤児たちは固く心を閉ざし表情をなくしている。そんな彼らに、言葉ではなくパントマイムで意思を伝え笑顔を取り戻させようとする若者。物語は、ドイツ占領下のフランスで多数のユダヤ人孤児の命を救ったパントマイミストの活躍を描く。銃を手に戦場に赴くのではない。テロ行為を仕掛けるわけでもない。ドイツ軍の目的をくじくことが闘争の目的。“復讐ではなく生き残ること” を優先させて民間人ながら祖国のために戦う男たち女たちの覚悟は、暴力では決して人の心までは支配できないと訴える。独仏開戦前はドイツ国内のユダヤ人孤児をフランス人が引き取るなど、人道的な交流はあったのは新たな知見だった。国境地帯の住民はもともと独仏両語に堪能だということか。

アーティスト気取りのマルセルはキャバレーのステージでチャップリンのものまねを披露する日々。ある日、排斥事件で親が殺されたユダヤ系ドイツ人の子供を引き取り、世話を始める。

独仏開戦後孤児たちを連れてリヨンに疎開したマルセルはでレジスタンスに参加、手始めにパスポートの偽造に取り掛かる。兄やいとこ、幼馴染の恋人姉妹も一緒。だが、リヨンの治安責任者・バルビーの巧妙な作戦でレジスタンスは少しずつ力をそがれていく。孤児たちをスイスに逃がす提案をしたマルセルは実行に移す。当然ながらその間、芸能活動はなし。父がヴェルディを朗々と歌う姿を見て、夢をかなえるには戦争を早く終わらせなければならないと誓う。自分のことしか考えていなかったマルセルが孤児のために命をかけた行動に出る。彼の成長は、非常事態は青年を早く大人にすると教えてくれる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

数人の孤児を連れてアルプス越えに挑むマルセルたち。バルビーが追ってくる。ところが猟犬もおらず荷物もほったらかしたまま。テーマはいいのだがディテールが甘く演出も凡庸だった。パットン軍団を前にした一世一代のパフォーマンスだけでもじっくりと見せてほしかった。

監督  ジョナタン・ヤクボウィッツ
出演  ジェシー・アイゼンバーグ/クレマンス・ポエジー/マティアス・シュバイクホファー/フェリックス・モアティ/ベラ・ラムジー/エド・ハリス
ナンバー  154
オススメ度  ★★*


↓公式サイト↓
http://resistance-movie.jp/

オールド

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気が付くと子供は急激に背が伸び、大人の顔にしわが増えている。小さかった腫瘍は肥大化し、妊娠から出産まで数十分しかかからない。物語は、時間の進み方が異常に速い空間に閉じ込められた老若男女のサバイバルを描く。強力な結界が張られ外には出られない。携帯電話の電波はもちろん圏外。遠くから見張られているような気もする。刻々と老化していく自分たちの体に心は追い付かず、ある者は正気をなくし、ある者は冷静に状況を分析し、ある者は無謀な脱出を図る。このまま老衰死を待つか、危険を覚悟で逃げ道を探し続けるか。極限まで追い詰められた人々の不安と恐怖、狂気と絶望リアルに再現されていた。爪や髪といった “死んだ細胞” は時間加速の影響を受けない設定なのに、金髪女の死体が急速に白骨化したのはなぜ?

楽園のようなリゾート地にやってきたガイたち4人家族は、秘密のビーチに招待される。そこには、医師一家4人、中年カップル、人気ラッパーもいる。ガイは空間がゆがむような感覚に襲われる。

ちょっと目を離したすきに娘のマドックス・息子のトレントの体格が大きく変わっている。医師の母親や愛犬は息をしていない。皆がパニックになりかける中、妻のプリスカだけは30分ごとに1年分年を取ると的確に推察、自分たちに残された時間を逆算する。まだ体が動くうちに何ができるかを考え、過去のわだかまりを解こうとするガイとプリスカ。豊かな人生を送れたかどうかは、愛したとか愛されたとかではなく、どれだけ他人に対して寛容になれたかが大きな比率を占める。ガイ&プリスカ夫妻と医師&自撮り妻のコミュニケーション密度の違いがそれを証明していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ひとりまたひとりと命を落としていく。手をこまねいていても運命は変わらない。自ら動かなければ未来は開けないとこの作品は教えてくれる。老化したり傷がすぐ治ったり受胎後すぐに出産したり血中の錆を操ったり時間が消し飛ぶ感覚があったりと、「ジョジョ5部」のスタンド攻撃を受けている気分になった。

監督  M・ナイト・シャマラン
出演  ガエル・ガルシア・ベルナル/ビッキー・クリープス/アレックス・ウルフ/ーマシン・マッケンジー/ルーファス・シーウェル/ケン・レオン
ナンバー  153
オススメ度  ★★★


↓公式サイト↓
https://old-movie.jp/

オールド

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気が付くと子供は急激に背が伸び、大人の顔にしわが増えている。小さかった腫瘍は肥大化し、妊娠から出産まで数十分しかかからない。物語は、時間の進み方が異常に速い空間に閉じ込められた老若男女のサバイバルを描く。強力な結界が張られ外には出られない。携帯電話の電波はもちろん圏外。遠くから見張られているような気もする。刻々と老化していく自分たちの体に心は追い付かず、ある者は正気をなくし、ある者は冷静に状況を分析し、ある者は無謀な脱出を図る。このまま老衰死を待つか、危険を覚悟で逃げ道を探し続けるか。極限まで追い詰められた人々の不安と恐怖、狂気と絶望リアルに再現されていた。爪や髪といった “死んだ細胞” は時間加速の影響を受けない設定なのに、金髪女の死体が急速に白骨化したのはなぜ?

楽園のようなリゾート地にやってきたガイたち4人家族は、秘密のビーチに招待される。そこには、医師一家4人、中年カップル、人気ラッパーもいる。ガイは空間がゆがむような感覚に襲われる。

ちょっと目を離したすきに娘のマドックス・息子のトレントの体格が大きく変わっている。医師の母親や愛犬は息をしていない。皆がパニックになりかける中、妻のプリスカだけは30分ごとに1年分年を取ると的確に推察、自分たちに残された時間を逆算する。まだ体が動くうちに何ができるかを考え、過去のわだかまりを解こうとするガイとプリスカ。豊かな人生を送れたかどうかは、愛したとか愛されたとかではなく、どれだけ他人に対して寛容になれたかが大きな比率を占める。ガイ&プリスカ夫妻と医師&自撮り妻のコミュニケーション密度の違いがそれを証明していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ひとりまたひとりと命を落としていく。手をこまねいていても運命は変わらない。自ら動かなければ未来は開けないとこの作品は教えてくれる。老化したり傷がすぐ治ったり受胎後すぐに出産したり血中の錆を操ったり時間が消し飛ぶ感覚があったりと、「ジョジョ5部」のスタンド攻撃を受けている気分になった。

監督  M・ナイト・シャマラン
出演  ガエル・ガルシア・ベルナル/ビッキー・クリープス/アレックス・ウルフ/ーマシン・マッケンジー/ルーファス・シーウェル/ケン・レオン
ナンバー  153
オススメ度  ★★★


↓公式サイト↓
https://old-movie.jp/

シュシュシュの娘

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余命わずかな祖父から託されたミッションは、無念の死を遂げた知人の仇討ち。このまま巨悪をのさばらせてはいけない。戦って正義を実現させなければいけない。特になすべきこともなく平凡な人生を送ってきた女は祖父の言葉に一念発起する。物語は、市役所勤務のOLが己の体に流れる血だけを根拠にスパイ活動をはじめ、外国人差別主義者たちを懲らしめようとする姿を描く。受け継いだ秘伝書に残っていたのは衣装のデザインだけ、それでも今の自分にできることは何か、やらなければならないことは何かを懸命に考え、不安を押し殺して暗躍する。アメコミヒーローのように機能的で洗練されてはいないけれど、いかにもなオーラを発散する手作り感あふれるコスチュームは、この作品のチープな世界観を象徴していた。

要介護の祖父と暮らす未宇は市役所先輩・間野を慕っていたが、間野は祖父に相談を持ち掛けた翌日自殺する。未宇は祖父から、間野が隠したUSBを市長派の職員よりも先に入手しろと命じられる。

地元では、移民労働者を締め出す条例が成立しようとしている。間野も祖父も反対だが、間野は推進派の上司から公文書改ざんを命じられ苦しんでいた。USBにはその証拠となる動画が収められている。普段からちくわの穴の煮汁を飛ばすのが好きな未宇が思いがけずその特技を使うシーンはコミカルで楽しい。外国人排斥運動や自警団による直接的な暴力・過激なビラなどの設定は戦時中を連想させるが、それらは異質なものを認めないネットユーザーからの同調圧力によって自由な発言が炎上・謝罪に追い込まれていく現代の日本を象徴していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

奮闘むなしく未宇は一敗地にまみれるが、自身を見直すため、家業を立て直すために改めて修行する。だが、技を教えてくれる祖父はいない。復讐のために必要な知識は書籍から、格闘術・暗殺術は動画から学ぶあたりがいかにも21世紀的だった。ただ、技術的な問題なのか、映像が暗く音声も不鮮明。このあたりのクオリティにもっとこだわってほしかった。

監督  入江悠
出演  福田沙紀/吉岡睦雄/根矢涼香/宇野祥平/金谷真由美/井浦新
ナンバー  152
オススメ度  ★★*


↓公式サイト↓
https://www.shushushu-movie.com/

光を追いかけて

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転校したばかりの中学なのに、閉校になってしまう。やっと知り合った女子はUFOを信じる不登校の不思議ちゃん。物語は、農村の中学生が最後の文化祭に向けて友情を確かめ合う姿を追う。クラスになじめずにひとりで過ごしていた少年は大役を任される。いじめられっ子に声を掛けたら、妙になついてくる。家族ぐるみで付き合うようになったUFO女子は複雑な家庭環境。クラスのリーダーは何としても文化祭を成功させたいと願う優等生。一方で大人たちも悩みは尽きない。担任教師は教育に情熱が持てず転職しようかと悩んでいる。商売が成り立たなくなって借金を返済できない店もある。そして地元の農家は将来への展望が描けず苦悩する。そんな過疎地の問題がリアルに浮き彫りにされていた。豊かな田園風景をとらえたドローン撮影が美しい。

屋根の上に立つ真希を見かけた彰は彼女をスケッチする。その絵を見たクラス委員の村上は、彰に壁画を依頼する。真希は問題を起こして学校を長期欠席していた。

稲穂が実る田んぼにミステリーサークルを作って寝そべっている真希。下校途中通りがかった彰は彼女と仲良くなる。彰にとっても真希にとってもお互いが心を開ける初めての友人。UFOを信じているあたりも話が合う。そして真希は彰の絵のセンスに、彰は真希の民謡の歌声に敬意を抱いている。勉強や運動神経ではない芸術的な才能で共鳴し合うふたりは、中学生らしからぬ大人びた雰囲気を持っている。そのあたり、派手さはないけれど地に足をつけて生きようとする一生懸命さがまぶしかった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

夜逃げした両親に見捨てられたうえミステリーサークルの秘密をSNSにさらされた真希は、文化祭準備中の学校に殴り込みをかける。そこで明らかになる、先生とクラスメートたちの真実。ひとりで生きていけるほど強い人間なんていない、人はみな誰かを頼り誰かに頼られている。ほとんどの住民は顔見知り、人と人の距離が近い田舎だからこその助け合いの精神が、クラス全員がUFOを見上げるシーンに凝縮されていた。

監督  成田洋一
出演  中川翼/長澤樹/生駒里奈/中島セナ/柳葉敏郎
ナンバー  129
オススメ度  ★★★*


↓公式サイト↓
https://hikariwo-oikakete.com/

Summer of 85

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転覆したヨットのそばで溺れているところに現れたのは涼しい目をした長髪の青年。助けてくれた上に、世話を焼いてくれて、その日のうちに親友になる。物語は、海辺の町で暮らす高校生の少年の初恋を描く。青年は押しが強いだけでなく、路上の酔っぱらいを介抱するなど親切心にもあふれている。少年は初めて心を許せる友人ができた気がした。映画を見た。ディスコで踊った。バイクで暴走した。乱闘もした。バイトさせてもらった。夏休み、少年は有り余る時間とエネルギーをすべて青年に費やし、その思いを抑えきれなくなって彼を受け入れてしまう。特に自覚しているわけでもない少年が抵抗なく青年に体を預けるのだ。まだ同性愛が一般的ではなかった時代、切なくも美しく上書きされた少年の記憶は、友情が恋に代わる瞬間をみずみずしくとらえていた。

ダヴィドと付き合い始めたアレックスは毎日が楽しくて仕方がない。だが、アレックスの知人の英国娘・ケイトが2人に合流、ダヴィドがケイトと仲良くなったことからアレックスは不機嫌になる。

“先に死んだ方の墓の上で踊る” という奇妙な約束をする2人。まだまだ若いのに、父を亡くしたばかりのダヴィドは死を身近に感じている。どんなに元気な人間でも突然逝くこともあり二度と戻ってこない。命の儚さを知っているからこそ、自分が生きていた証を誰かに残したかったのだろう。映画は、アレックスがダヴィドを回想する体裁、すでに死んでいると知っているからこそダヴィドの笑顔が余計にまぶしく映る。ダヴィドの母の異様なほどの愛情は、夫を亡くした悲しみの裏返しなのだろうか。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ダヴィドに先立たれたアレックスは強烈な喪失感と後悔に襲われる。ユダヤ人のダヴィドは戒律に沿って葬られるが、アレックスは弔問すら許されない。それでも最後の願いをかなえた後、約束を果たそうとする。狂おしいほどの思いをたたきつけるようなアレックスのダンスは、懐かしくもスローでメロウなメロディが一層哀しさを引き立たせていた。

監督  フランソワ・オゾン
出演  フェリックス・ルフェーブル/バンジャマン・ボワザン/フィリッピーヌ・ベルジュ/バレリア・ブルーニ・テデスキ/メルビル・プポール/イザベル・ナンティ
ナンバー  151
オススメ度  ★★★


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http://summer85.jp/

孤狼の血 LEVEL2

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あらゆる公権力を憎むだけではない。復讐の邪魔する者は、たとえ親分兄貴分であっても容赦しない。物語は、平和を取り戻した町に舞い戻ってきた大物ヤクザと暴力団組織を陰で操っている刑事の暗闘を追う。恨みを持つ相手は目玉をくりぬいてから殺す。義理も人情もないが、世界に対する怒りだけは誰よりも強い。良心など一片もなく、ただ自分が組織の頂点に立つことだけを考え日々謀略を巡らせている。敵対組織だけでなく警察とも全面戦争になっても余裕すら浮かべ、絶対に死なないと確信を持っているかのよう。自らを死に神と呼ぶこの大悪党を鈴木亮平が怪演、腕っぷしの強さと肝の太さが勲章だった古き良き時代のヤクザを体現していた。任侠道などすっかりすたれた現代の視点で見ると、活力あふれる映像は時代劇のような趣をまとっていた。

ピアノ講師惨殺事件の捜査官として召集された日岡ロートル刑事の瀬島とコンビを組み聞き込みにあたる。出所したばかりの上林に目星を付けるが決定的な証拠はなかなか見つからない。

一匹狼のはみ出し者で上層部の弱みを握っている日岡は、ヤクザと警察双方にとって目の上のたん瘤扱いされている。チンタというスパイを使って上林の動向を探らせているが情報は集まらない。そのうち、警察内部の奇妙な動きにも気づく日岡。裏切りと嘘、暴力と欺瞞に満ちた世界、誰もが生き残るために必死でもがいている。追い詰められた男たちの絞り出すような熱い吐息がスクリーンから滲み出すようだった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

直接対決のほかに、日岡と上林はそれぞれが同業者と戦わなければならない。似た者同士の日岡と上林、お互いを知っていく過程で相手に共感を抱くなんてことはない。それでも旧態然としたシステムに新しい風を吹き込もうとする心意気は、21世紀の日本にこそ必要なのではないだろうか。複雑すぎる人間関係の中では瀬島の存在が際立っていたが、公安の刑事はあそこまで完璧な偽装が出来るのか。なんか取ってつけたような後日談は、騙された気がしなかった。

監督  白石和彌
出演  松坂桃李/鈴木亮平/村上虹郎/西野七瀬/早乙女太一/渋川清彦/斎藤工/中村梅雀/滝藤賢一/宮崎美子/寺島進/宇梶剛士/かたせ梨乃/中村獅童/吉田鋼太郎
ナンバー  150
オススメ度  ★★★


↓公式サイト↓
https://www.korou.jp/