こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密

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倒すべき相手はかつて同じ目標を目指した指名手配犯。だが、誓いによって縛られた賢者は彼を攻撃できない。物語は、魔法界のリーダーとなって人間に害をなそうとする男の暴走を阻止する魔法使いたちの戦いを描く。聖獣の赤ちゃんだけがリーダーの適性を知っている。赤ちゃんさえ操れば権力が手に入る。扇動と監視、まるで全体主義が支配する街で繰り広げられる虚々実々の駆け引きと、魔法というエネルギー波を激突させる決闘。暴力とは無縁だった若者は、否応なく戦いに巻き込まれるが、そこでも他者を傷つけることなく問題を解決しようと心がける。サソリ状の魔法動物とシンクロしたダンスには彼の平和主義が象徴されていた。だが、一貫して暗いトーンの映像はそれが理想にすぎないことも暗示している。

グリンデルバルドの陰謀を阻止するために集結したニュートら魔法使いとジェイコブはベルリンに飛びダンブルドアと合流する。テセウスが逮捕・拘束されるが、ニュートは単身彼を救出に向かう。

未来予知ができるグリンデルバルドに対し、無計画作戦で臨むダンブルドアたち。双子の聖獣の片方は奪われたがもう片方を鞄に保護したニュートは、それをグリンデルバルドとの決戦の切り札にしなければならない。同時にダンブルドアとクリーデンスの因縁もあり、相関関係は一層複雑さを増す。ディテールにこだわった映像の洪水に圧倒されるとともに、さまざまなキャラクターの側面が語られるのだ。その情報量の多さと展開の速さはきちんと咀嚼する間を与えてくれず、細密さが増すほどにCG感も強くなる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ただ、ジェンダー平等と人種的・性的多様性といったリベラルに配慮した “いかにも” な設定が鼻についた。この時代、女性や有色人種・同性愛者はもっと生きづらかったはず。魔法界の話といえども、むしろそういった差別があったことをきちんと盛り込むべきではないだろうか。いつの間にかニュートよりもダンブルドアが主人公になっていたのも気にかかる。知名度から考えて仕方ないが。

監督     デビッド・イェーツ
出演     エディ・レッドメイン/ジュード・ロウ/マッツ・ミケルセン/アリソン・スドル/ダン・フォグラー/エズラ・ミラー/ジェシカ・ウィリアムズ/カラム・ターナー/ビクトリア・イエイツ/ウィリアム・ナディラム/キャサリン・ウォーターストン
ナンバー     66
オススメ度     ★★*


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女子高生に殺されたい

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演劇少女、柔道少女、霊感少女、多重人格少女etc. さまざまなタイプの美少女に笑顔で接し声をかける高校教師。彼は歪んだ自殺願望を抱えてずっと生きてきた。物語は、9年前に起きた奇妙な事件に憑りつかれ、心療内科医から教師に転身した男が、捜し続けてきた少女に狂った願望を押し付けようとする姿を描く。一見人当たりのいい好青年、女生徒たちの人気は高い。自分に熱視線を送ってくる生徒の気持ちを巧みに操り、興味なさそうな生徒には積極的に接近して振り向かせようとする。だが彼の目的は性的なものではなく、彼女たちのひとりに殺されること。他人を陥れたりする異常者ではあるが、なるべく暴力的にはならないように心掛けている。そのバランスが非常に巧みにで、なんか主人公の願いを叶えてやりたくなった。

新任の高校で2年の担任になった春人は、真帆、あおい、京子、愛佳の4人に的を絞る。文化祭の演劇に向けて計画を進める間、キャサリンという超絶パワーを持つ少女が現れるのを待つ。

春人は、日本史の教師としては至極まとも。遺跡を研究する部活を立ち上げると真帆とあおいが入部する。演劇では京子を熱心に指導する。柔道部の愛佳にも目をつける。岩場で手を取ったり、膝と膝をタッチしたり、窮地を救ったり、彼女たちの乙女心をそれぞれの性格に合わせて自分に向けさせるテクニックは、さすが心理学を学んでいただけのことはある。このあたり、少女たちが春人の罠に落ちていく過程がわざとらしくなく、それほど悪意が感じられない演出ゆえにむしろ不穏な不協和音が鳴り響いているかのよう。安易なホラー仕立てにしなかったことに好感が持てた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

2学期になると、春人の元恋人・五月がカウンセラーとして赴任してくる。春人の過去を知る五月は、彼の計画を察知する。このふたりの関係もひねりすぎずこねすぎず適度な緊張感をもたらす。そして文化祭の当日、春人は人生をかけて練り上げた計画を実行に移す。春人の気持ちは理解できないが、そこにロマンを感じた。

監督     城定秀夫
出演     田中圭/南沙良/河合優実/莉子/茅島みずき/細田佳央/大島優子
ナンバー     65
オススメ度     ★★★*


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英雄の証明

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確かに魔が差しそうになった。でもそこは正直に話した。なのに一度芽生えた疑惑は急速に広がり、個人ではどうすることもできない。物語は、拾った金貨を持ち主に返したのに嘘つき呼ばわりされた男の苦悩を描く。元々借金のせいで服役していて、社会的信用は薄い。だからこそ、返済するためにきちんとした仕事に就こうとはしている。だが、金貨の持ち主の連絡先を聞いていなかったせいで、その事実さえ捏造と決めつけられる。証人は姉と息子だけ。証明しようにも持ち主の居場所はわからない。善意の英雄としてマスコミで取り上げられた後だけに、余計に立場が苦しくなる。さらに家族にもまだ言えない秘密を抱えた男は、小さな嘘を重ねるうちに自分の立場をもっと悪化させていく。そんな不条理に飲み込まれ身動きが取れなくなる主人公の気持ちがリアルに再現されていた。

休暇で出所していたラヒムは、恋人が拾った金貨の存在をポスターで告知する。刑務所に戻ったラヒムの代わりに姉が落とし主に金貨を返すと、その話が刑務所長の耳に入る。

プロパガンダに使えると判断した署長は刑務主任とともにラヒムをTVに売り込む。恋人の存在を隠したいラヒムも自分が拾ったことにしてインタビューを受ける。だが、肝心の落とし主は名乗り出てこない。作り話ではないのか? ラヒムの債権者が思ったことを口にすると、同じような投稿がSNSで拡散される。落とし主が見つからない以上、ラヒムの立場は悪くなるばかり。今までラヒムを持ち上げてきた人たちが掌返しをする過程は、現実社会でもネットの世界でも、人々は英雄よりもスケープゴートが求めているという事実をあぶりだす。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

慈善団体からあっせんされたオフィスに面接に行くと、そこでも金貨事件について詳しい説明を求められる。どうしたら信じてもらえるのか。人を傷つけない嘘もついてはいけないのか。一度失った信用はもう取り戻せない。体制側にも逆らえない。少し教条的ではあるが、真実だけが人間を幸せにするとこの作品は教えてくれる。

監督     アスガー・ファルハディ
出演     アミール・ジャディディ/モーセン・タナバンデ/サハル・ゴルデュースト/マルヤム・シャーダイ/アリレザ・ジャハンディデ/サレー・カリマイ
ナンバー     64
オススメ度     ★★★*


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https://synca.jp/ahero/

アネット

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“お前らを笑わせてやる” と客を挑発し、不遜な態度を取ってもなお称賛の拍手を得るステージ上のコメディアンはむしろ不機嫌ですらある。天使のソプラノを持つ歌手は聴くものすべての感情を揺さぶる強烈な磁力の声を持つ。物語は、人気絶頂のふたりが恋に落ち結婚、その後不幸に転落する運命を描く。常に既成の価値観に挑むような男の攻撃的な歌は怒りと憎しみを象徴し、死を意識させるほど美しい彼女の歌は愛と平和が犠牲の上に成り立っていると訴える。あらゆるセリフが歌で表現された映像は長めのショットの連続で息つく間もない緊張感を醸し出し、夫婦間のわずかなほころびが大きな悲劇につながっていく過程の彼らの心情がエモーショナルに再現されていた。妻の成功に嫉妬する男の苦悩がリアルだった。

ピン芸人のヘンリーはオペラ歌手のアンと交際、芸能ニュースをにぎわせた後に結ばれ、女児・アネットをもうける。ところがヘンリーは女たちから暴行されたと告発されスランプに陥る。

女が “被害者” と名乗り出たとき、彼女たちの言い分だけが検証もされずに垂れ流され、“加害者” になすすべはない。以後、ヘンリーのジョークはウケなくなり心機一転ラスベガスに進出するが、自虐的なネタはかえってスベりまくる。一方のアンは出産後も着実にキャリアを伸ばし絶頂期にある。ふたりともアネットには変わらぬ愛を注いでいるが、溝は開くばかり。その悪循環の中でヘンリーの心はますます荒れていく。こんな時、妻のやさしさが夫にとって一番つらい。ヘンリーを思いやるアンの言葉が彼の心を深くえぐるシーンが、格差夫婦の現実を教えてくれる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

まだ赤ちゃんのアネットがきれいな声を出すと知ったヘンリーは、指揮者と組んで一儲けを企む。アネットは奇跡の赤ちゃんとして話題になり、報道を通じてたちまち時代の寵児となる。芸能人は常にマスコミに見張られ、一般人からモラルを問われている。自由を奪われたヘンリーは、行き過ぎた相互監視社会の犠牲者のようにも見えた。

監督     レオス・カラックス
出演     アダム・ドライバー/マリオン・コティヤール/サイモン・ヘルバーク/デビン・マクドウェル/ラッセル・メイル/ロン・メイル
ナンバー     63
オススメ度     ★★★


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https://annette-film.com/

 

 

シャドウ・イン・クラウド

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容赦ないセクハラとマウンティング、まだまだ戦場が男の聖域だった時代、女の言葉は誰も信じない。物語は、爆撃機に乗り込んだ女将校が味方の偏見と伝説の怪物と本物の敵と戦いながら窮地を切り抜けていく姿を描く。特命任務を負っているのに兵卒からも見下される。狭い空間に閉じ込められて身動きが取れない。雲の上で怪物が襲ってきてもひとりで対応を迫られる。やがて、男たちの無能ぶりに耐えかねた彼女は大切なものを守るために命を張った行動に出る。ほとんどが銃座に座ったままのヒロインと無線機から聞こえてくる男たちの会話で構成される前半は、彼女が身体的接触や性的な視線にさらされることがない分、ひたすら卑猥な言葉が投げつけられる。それくらいで心折れない彼女は、男社会で生きる女の覚悟が凝縮されていた。

ニュージーランドからサモアに向かう爆撃機に最高機密の入った荷物と共に乗り込んだモードは、クルーの強烈な拒否反応に遭い銃座に閉じ込められる。離陸後グレムリンを発見する。

グレムリンは機内に侵入し彼女の荷物を奪う。機内では男たちが右往左往するばかりでだけで、日本軍の戦闘機が接近してきているのに気づかない。銃座から脱出してグレムリンを退け、荷物を奪還し、日本軍の攻撃をかわしながら、爆撃機の外側から機内に戻らなければならない。そんな、スーパーヒーローものでもなかなか見られない不可能なミッションに彼女はひるまずに挑む。クロエ・グレース・モリッツには「キック・アス」で見せた驚異的な身体能力がある。だからこそ、このムチャ振り的なアクションにも説得力があった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

その後も役に立たない男どもを制御・指揮しながら次々と降りかかる危機を乗り越えつつ、大切な荷物を守るモード。銃器の扱いや飛行機の操縦に長けているだけでなく、素手の格闘にも抜群の強さを見せる。いまや彼女は万能のスーパーソルジャーであると同時に愛情深い母。ただ、女の活躍は歓迎すべきだが、ここまでやるとジェンダーフリーの精神からずれている。

監督     ロザンヌ・リャン
出演     クロエ・グレース・モレッツ/ビューラ・コアレ/ テイラー・ジョン・スミス/カラン・マルベイ/ニック・ロビンソン
ナンバー     62
オススメ度     ★★


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https://shadow-in-cloud.com/

モービウス

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自らの病気のために開発した治療薬で図らずも吸血鬼になってしまった。まともに歩けなかった貧弱な肉体は超人的なスピードとパワーを身に着け、武装した傭兵たちから一瞬にして血を吸い取ってしまう。そしてその間の記憶はない。物語は、医学界に革命をもたらした天才医師が同じ効能を望んだ親友の暴走を止める姿を描く。不自由な環境で育った彼らは世間に対して潜在的な怨恨を抱いている。だが主人公は理性で感情を抑制し、高い知能と鋼鉄の意志で業績を上げてきた。ところが一度覚えた人血の味は、時間と共に彼に耐えがたい渇きをもたらす。善意の医師としての顔と血を望む悪魔の顔、その相克の中で彼は苦悩し己の真実を見つめなおす。ヒーローなのかヴィランなのか、その中途半端な立ち位置が、正義が迷走する時代を象徴する。

コウモリを使って先天的血液病の血清を開発したマイケルは自分で人体実験をする。その副作用は激しく、人工血液を飲み続けなければ抑制できない。幼馴染のマイロも血清を使い、吸血鬼化する。

ジャングルの奥地でコウモリを見つけ、その血を人血とキメラ化し万能血液を合成する。マイケルの研究は、生体実験とコンピューターの計算及びシミュレーションがディテール豊かに再現され、本物のラボにいるような気分にさせてくれる。一方、30年以上も杖を使わなければ歩けなかったマイロも、マイケルの血清で生まれ変わる。足も背筋もしゃきっと伸び全身に力がみなぎったマイロは、生命の実感だけでなく全能感まで手に入れる。今までの人生を取り戻すかのように羽を伸ばし、バーで絡んできた男たちを制裁するシーンは、心まで解放された喜びに満ち溢れ、生きる意味とは何かを考えさせてくれる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

傭兵殺しの容疑者として追われているマイケルは、捜査をかいくぐりつつマイロを止めようと説得を試みるが、もはや手遅れ。2人のバトルは動きが速いうえに夜の闇の中で繰り広げられるため、少し見づらかった。コウモリつながりの男は次回作以降に関係してくるのだろうな。

監督     ダニエル・エスピノーサ
出演     ジャレッド・レト/マット・スミス/アドリア・アルホナ/ジャレッド・ハリス/アル・マドリガル/タイリース・ギブソン/マイケル・キートン
ナンバー     61
オススメ度     ★★*


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https://www.morbius-movie.jp/

オートクチュール

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福祉に頼り切ってまともに働く気はない。どうせ私なんかと自らを卑下して窃盗に手を染めている。パリ郊外の団地ではそんな移民たちが希望を持てずに暮らしている。物語は、高級ブランドのベテランお針子と移民街に住む娘の交流を描く。ドレスの手縫いで数十年生きてきた女は引退間近なのに家族はいない。移民の娘の指先に才能を感じた彼女は、娘を後継者として育成しようとする。だが、年長者の助言に耳を貸さず自由に生きたいと言う娘。他人の言に耳を傾けず自己主張が強い人々がケンカ腰に交わす会話は刺々しく、決して相手を忖度しない。思ったことを遠回しな言葉にする日本と違って、ストレートに気持ちや感情を伝える方がフランスでは信用されるのだろうか。

奪われたバッグを返しに来たジャドをアトリエに誘ったエステルは縫製を基礎から教える。元々指先が器用なジャドはすぐに覚えるが、その出自ゆえさまざまな軋轢を生む。

まともな教育は受けていないジャドは素行が悪く、遅刻したり休日出勤を拒んだりする。23歳という設定だが、まだ反抗期の少女のようなメンタリティ。貧困の中で生まれ育ち、真の愛や友情に恵まれずに育つとこうなってしまうのか。エステルはジャドの中に眠る善良な部分を信じ、彼女が目を覚ますのを待つ。ジャドの立場からすれば、自分の生き方にあれこれ口を出されるのは鬱陶しいだけだろう。ところが、介護している実の母親にはない、エステルの誠実な生き方に少しずつ影響を受けていく。お針の給料はそれほど恵まれていない。仕事にのめりこみすぎて娘との関係も疎遠になったまま年を取る。それでも “それが私の人生” と胸を張るエステルに、個人主義を貫くフランス人の誇りが凝縮されていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

最後の仕事になるコレクションに向けてエステルは残業続きの日々を送る。彼女の背中から学んだジャドは生活態度を改めていく。人種や価値観、世代は違っても、真正面からぶつかり合って、お互いを理解すれば信頼を築けると2人の笑顔は訴えていた。

監督     シルビー・オハヨン
出演     ナタリー・バイ/リナ・クードリ/パスカル・アルビロ/クロード・ペロン
ナンバー     60
オススメ度     ★★★


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https://hautecouture-movie.com/