こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

鬼が笑う

母と妹を守るために父を殺してしまった。だがその事実は服役を終えた後も決して消えない。物語は、社会復帰準備中の元受刑者が自分と向き合いながらも差別と偏見に立ち向かう姿を描く。与えられた仕事は産廃物の解体。更生者は威張り散らす従業員の下で虫けらのように扱われる。日本語がたどたどしい外国人労働者のおかげでいじめの対象からは逃れられるが、理不尽な状況は変わらない。更生者と外国人、自由や人権が制限された圧倒的に立場の弱い者たちが弄ばれ虐げられ搾取される。DVと貧困、痛々しいほど強調された底辺生活者の日常は言葉を失うほど屈辱に満ち、見る者を負のスパイラルのどん底にまで引きずり込む。愛はない。希望もない。かつて家族だった人々からは遠避けられる。そんな中で主人公が中国人労働者と結ぶ友情がわずかな救いだった。

更生者施設から解体工場に通う一馬はまじめな働きぶりに一目置かれている。ある日、いじめられているベトナム人技能実習生をかばったことから中国人労働者・リュウと仲良くなる。

一馬は、正義感が強いリュウと意気投合。リーダーになったリュウをいまいましく思っている従業員たちは当然協力せず、リュウが困っているところを一馬が手伝ったりする。劣悪な環境でも他人のことを思いやれる一馬の心は非常に善良だ。それは更生したからではなく持って生まれた彼のやさしさ。なのに彼に貼られた殺人犯というレッテルは決してはがれない。彼が救ったはずの母や妹からも恨み言を言われた上に拒絶される一馬の胸中が、いたたまれないほどに切なかった。彼女たちがいかに苦しんできたかを想像するに、その気持ちもわからないでもないが、あくまで彼女たちは一馬を責め続ける。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

解体工場から疎ましく思われたリュウは、さらなる陰湿な仕打ちを受ける。これ以上の不正や理不尽には耐えられない、それでももめごとを起こすと居場所がなくなる。社会的に人間として認められていない人々の、絶望とあきらめ、不満と怒りがリアルに再現されていた。

監督     三野龍一
出演     半田周平/梅田誠弘/赤間麻里子/大谷麻衣/木ノ本嶺浩/鳥居功太郎/大窪晶/齋藤博之/岡田義徳
ナンバー     95
オススメ度     ★★★★


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大河への道

偉業を成し遂げたと信じていた歴史上の人物は、実は完遂前に死んでいた。だがその大願は弟子たちに受け継がれ、死を秘したまま成就する。物語は、江戸時代に初めて日本地図を作った男をドラマ化しようとする男たちと、“作者” の死後に地図を完成させた人々の奮闘を追う。なるべく正確な地形を再現するために数十歩歩いては距離を測り記録していく。レンズなどなくすべては目視、ある時は砂浜ある時は崖と道なき道を測量しながらあらゆる海岸線を徒歩で進む姿は、この事業を成功させようとする途方もない熱量を感じさせる。一方、真実を知った現代の公務員たちは彼らの努力に思いをはせつつ自分たちの仕事のエネルギーへと昇華していく。大事をなすには嘘も許される。大切なのは最後までやり通す意思だとこの作品は訴える。

市役所職員・池本は地域振興策として地元出身の英雄・伊能忠敬大河ドラマ化する企画を立てる。脚本を依頼された加藤は「伊能は日本地図を作っていない」と断言、計画は頓挫する。

加藤はその理由を池本たちに語るのだが、まず伊能は日本地図完成の3年前に死んでいると指摘する。伊能の弟子たちが幕府からの資金援助がなくなるのを危惧し、伊能の死を隠して測量と製図を続けたというのだ。幕府との中継役・高橋という侍も謀に参加、むしろ一番弟子の綿貫とともに積極的に偽装工作に手を染める。現代の池本と江戸時代の高橋、優柔不断で上役にはペコペコ、部下にも気を使いすぎるけれど、一度決めたことはやり通す意志の強さも持つ役人を、中井貴一が器用に演じていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

細い絵筆や製図道具などで数センチずつ海岸線を和紙に描きこんでいくのは気の遠くなるような作業。職人たちの熱意と根気は、小さなことの積み重ねこそが大きな結果につながると教えてくれる。ただ、随所にコミカルな要素を挟んで笑いを取ろうとしているのだが、非常にセンスが古い。密偵の神田が何度もぎっくり腰になるがそのたびに「ゴキッ」と効果音が入るのにはうんざりした。

監督     中西健二
出演     中井貴一/松山ケンイチ/北川景子/岸井ゆきの/和田正人/立川志の輔/西村まさ彦/平田満/草刈正雄/橋爪功
ナンバー     93
オススメ度     ★★*


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シング・ア・ソング! 笑顔を咲かす歌声

男たちは出征した。高級将校の妻は、残された妻たちをまとめる責任を感じる。だが、兵士の妻たちは夫の身を案じても積極的には動かない。物語は、アフガン戦争に派遣された軍人の妻たちが、コーラスを通じて希望を見出していく姿を追う。教養も自制心も自尊心も高い将校の妻は常に身の回りを整えていて、まるで教師のように振舞う。一方で、下士官以下の妻たちは心が弱く下ネタと噂話しかしない。彼女たちの障壁は夫の階級というよりは出身階級の差。将校妻が下士官妻のリーダーと時に対立しながらも少しずつお互いの立場を理解し合っていく過程は、相手の立場を尊重し共感することが人間関係の基本だと教えてくれる。やはり、きちんと教育を受けた者の話し方は、受けてこなかった人々には鼻につくのだ。

英国内の陸軍基地で暮らす大佐の妻・ケイトは、基地内に住む妻たちの活動に顔を出す。妻たちのまとめ役・リサとコーラスを始めることで同意するが、歌や練習方法でことごとく対立する。

ケイト以外、夫が将校の者はいない。上から目線で彼女たちに接するケイトだったが、リサは音楽が得意ではなく、いつしかケイトが練習を仕切っている。学校のような堅苦しさを持ち込むケイトにリサはことごとく反発するが、リサの娘をめぐって2人は少しずつ心を開いていく。それでもリサたちの前では決して弱みを見せまいと意地を張るケイト。大佐の妻としての矜持を守ろうとするケイトのまっすぐに伸びた背筋は、地位には義務が伴うと訴える。戦死した息子が残したクルマを見つめるケイトのまなざしが、彼女の深い悲しみを象徴していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

夫の戦死を知らされたサラをケイトは慰める。愛する者の死は覚悟していても耐えられない。それでも葬儀で死者の魂を合唱で慰めると、ステージで歌う意欲に駆られるコーラス隊。ケイトとリサの間に、お約束のように新たなトラブルが発生したりするが、それもぎりぎり乗り越える。同じ月を時間差で見る歌詞には、離れていても愛し合う夫婦の情景が浮かんだ。

監督     ピーター・カッタネオ
出演     クリスティン・スコット・トーマス/シャロン・ホーガン/グレッグ・ワイズ/ジェイソン・フレミング/エマ・ラウンズ/ギャビー・フレンチ/エイミー・ジェームズ=ケリー/インディア・リア・アマルテイフィオ
ナンバー     94
オススメ度     ★★★*


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https://singasong-movie.jp/

ハケンアニメ!

人生に立ち向かう気持ちをアニメにもらった。今度は自分が誰かの心に残る作品を作って見せる。物語は、大手アニメ制作会社に転職した女が初演出作を完成させるまでを描く。大まかな構成を決め、キャラクターに肉付けをしていく。ストーリーや設定の変更はしょっちゅう起こる。そのたびに作画スタッフに声をかけ音声も録りなおさなければならない。進行スケジュールは大幅に遅れ、睡眠時間は削られていく。現場から上がる不満の声をなだめ、プロデューサーのプレッシャーにも耐えなければならない。それでも頑張れるのは、勇気や希望を視聴者に感じてもらいたいから。彼女の仕事に対する姿勢は、投入した熱量が完成度に反映されると訴える。ただ、彼らの情熱の結晶がスマホの小さな画面で消費されていくは哀しかった。せめてTVで見るのが制作者への礼儀だろう。

入社後7年経った瞳は子供向けTVシリーズの監督を任される。だが、同時間帯に他局で放送されるのはかつて天才と言われた王子の作品。圧倒的な世界観の差に瞳は出鼻をくじかれる。

瞳の頭の中では、登場人物の言動と背景の動きが出来上がっている。それをコンテに起こした上で言語化してスタッフに伝えなければ、彼らは動いてくれない。ほとんどは年上のベテラン、誰よりも作品を理解しすべてのシーンを把握していなければ容赦なく突っ込まれる。そしてその小さな積み重ねが最終的には作品のメッセージとなって視聴者の心に突き刺さる。まだまだザコ扱いされていても “監督” と呼ばれることにプライドを持つようになった瞳の成長は、大きなプロジェクトは参加者全員の献身的な協力がなければ成功しないと訴える。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

並行して王子と組む女プロデューサーの奮闘も挿入される。王子に振り回されTV局との軋轢に苦しむ彼女の姿は、クリエーターのわがままに振り回される人間の苦悩がリアルに再現されていた。現場の責任者と作品の責任者、2人のヒロインの奮闘は、娯楽を生みだす者の葛藤はそのまま生きる喜びにつながると教えてくれる。

監督     吉野耕平
出演     吉岡里帆/中村倫也/柄本佑/尾野真千子/工藤阿須加/ 小野花梨/高野麻里/前野朋哉/古舘寛治/徳井優/六角精児
ナンバー     92
オススメ度     ★★★*


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https://haken-anime.jp/

クリーチャー・デザイナーズ ハリウッド特殊効果の魔術師たち

ジョルジュ・メリエスの昔から始まった特殊効果の歴史は、デジタルに移行した21世紀もなおその根幹は変わっていない。いくらCGで緻密に描ける時代になっても、物理的な質量を持つ物体の存在感にはかなわないからだ。CG技術を大躍進させた「T2」やその集大成である「ジュラシック・パーク」など、ほとんどコンピューター上で作画されていると大々的に広報されていたが、職人たちが模型を一つずつ手作業で仕上げていったという事実は衝撃的だ。あの二足恐竜・ヴェロキラプトルさえスーツアクターが着ぐるみの中で演じていたとは。。。カメラは、映画に登場する怪物や宇宙人を再現する職人たちの苦労をインタビューにまとめる。想像上の産物をだが、時に知性や感情を持っている。彼らの精神は人間以上の働きをする場合もある。その内面を表現するために重ねた苦労は、時にその作品を不朽の名作にするのだ。

“特撮” は、サイレント時代からあった人形を1コマずつ撮影する手法から特殊メーク、ボディスーツを経て、精巧な模型を制御する時代になる。だが、CGの可能性が現場を一変させる。

CGを使えばどんな形状でも可能になるし大量に同じようなものが作れる。「スターシップ・トゥーパーズ」におけるバグの大軍はこの技術なしでは再現不可能。この作品自体はイマイチだったが、今でも忘れられないインパクトの大きさはCGのおかげだ。一方で戦闘員が大型のバグに食われるシーンは実写との合成。リアリティを出すためには完全にはCGに頼れない、むしろアナログ的撮影方法との融和が映像に奥行きをもたらすのだ。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

CGの限界に気づいたクリエーターたちはロボットの上にシリコン被膜を被せる方法で自らの生き残りを図る。細かい表情の変化や指先の動きは、やはりCGよりも迫力がありリアリティも違う。情報を詰め込んだCG映画が一時はやったが、近年はCGにアナログ的な味わいを残す映像が支持されるようになる。この映画では取り上げられないが、「シン・ウルトラマン」はそのトレンドの先端を走っている。

監督     ジル・パンソ/アレクサンドル・ポンセ
出演     ギレルモ・デル・トロ/ジョン・ランディス/ジョー・ダンテ/ケビン・スミス/リック・ベイカー/フィル・ティペット/スティーブ・ジョンソン
ナンバー     91
オススメ度     ★★★


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https://creature-designers.jp/#modal

バニシング 未解決事件

川に捨てられていた腐乱死体から殺人事件とあたりをつけた刑事は、特殊な液体で指紋を再生させる技術を持つ法医学者に助力を仰ぐ。物語は、臓器売買のために殺人を請け負う組織を追う刑事が、フランスから来た女法医学者とともに事件の真相を暴いていく過程を描く。被害者は中国南部出身者ばかり。さらに詳しく検分すると、生きたまま臓器を抜かれ、そののちに死亡している。人間の命を残虐かつ冷酷かつシステマティックな方法でカネに変える非情な男たちの “仕事感覚” が不気味で不快だった。一方で、相手は警官に対しても平気で発砲してくるような凶暴な悪党であるにもかかわらず、女学者は多忙なスケジュールを縫って捜査に協力するだけでなく積極的に危険に飛び込んでいく。拉致実行犯の男が母親思いなのは、皮肉が利いていた。

肝臓を摘出された死体から、臓器売買組織の存在に気づいた刑事・ジノは、法医学者・アリスの見解に従って希少な血液型の女ばかりが狙われていると知る。ジノは人材派遣会社をガサ入れする。

組織は次のターゲットを狙っている。注文に応えるために胎盤や心臓まで手に入れようとする。そしてアリスの通訳を務める女の夫が臓器摘出の実行犯だったことから、ジノの姪の友人がターゲットにされる。また拉致に失敗しかけた男に対しては制裁が加えられる。このあたり、金持ちは貧乏人の命さえ買うことができるという格差社会の現実がリアルに再現されていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ただ、謎を解くとまた別の謎が現れるというようなミステリー仕立てにはなっておらず、意外と構成が単純なのが期待外れ。組織の人間関係を詳しく説明せず場面だけで彼らのおかれた立場を想像させる手法は洗練されているが、編集上の工夫といえばそれくらい。一応伏線とその回収はあるが、スリリングな緊張感もない。映像のクオリティは非常に高く、ソウルの夜景の美さと繁栄から取り残された地域に住む人々の落差など印象に残るショットも少なからずあっただけに、もっとひねりがほしかった。

監督     ドゥニ・デルクール
出演     ユ・ヨンソク/オルガ・キュリレンコ/イェ・ジウォン/チェ・ムソン/パク・ソイ
ナンバー     89
オススメ度     ★★*


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http://www.finefilms.co.jp/vanishing/

マイスモールランド

幼いころに来日したから言葉には不自由せず、それなりに地元に馴染んでいる。母語しか話せない同胞にも頼りにされている。だが、父の不在が少しずつ彼女を追い詰めていく。物語は、在日クルド人の女子高生がさまざまな困難に直面する姿を追う。エキゾチックな顔立ちはドイツ人といっても通用する。学校の成績もよくバイト先での評判もいい。ところが、父の難民申請は却下され就労許可も下りない。稼ぎ手がいなくなった家族、彼女は妹と弟の面倒を見なければならない。好きでもない男との結婚を迫るクルド人社会の世話になるのはイヤ。不法滞在者になってしまった少女がその若さを売る選択に迫られていく過程は、現代社会が抱える貧困問題を浮き彫りにする。もうどうしたらいいのかわからない、ひとりで問題を抱え込む彼女の小さな肩が切なかった。

大学進学のために放課後コンビニで働くサーリャは、バイト仲間の総太と仲良くなる。サーリャは総太にだけは心を開き、自らの出自を語り、自宅アパートに招待する。

華やかな民族衣装から床に座っての食事、絶対的な父権、にぎやかな飲み会といった故郷の習慣が色小濃く残る埼玉県南部のクルド人社会。土地を追われた人々に対し日本の入管の審査は厳しく、肉体労働で日銭を得るしかない。サーリャの父は真面目に働きつつましく暮らしているのに、一度職質を受けただけで身柄を拘束される。父はサーリャと総太の交友を快く思っておらず、一方で日本のリベラルな教育を受けたサーリャも旧弊に対する反抗期を迎えている。サーリャを取り巻く小さな世界は、外国人問題だけではなく、世代間の葛藤や恋愛、教育の機会など悩み事ばかり。小学校教諭を始め地元の人々が外国人に偏見を持っていないのが救いだった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

コンビニもクビになり家賃も督促され大学にも行けないと知ったサーリャは進学資金に手を付ける。嫌われたくなくて総太には話せない。それでも、追い詰められたサーリャに父の思いが届く。彼女の艶やかな頬にこぼれる涙が深い余韻を残す。

監督     川和田恵真
出演     嵐莉菜/奥平大兼/アラシ・カーフィザデー/リリ・カーフィザデー/リオン・カーフィザデー/韓英恵/藤井隆/池脇千鶴/平泉成
ナンバー     90
オススメ度     ★★★★


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https://mysmallland.jp/