こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

バニシング 未解決事件

川に捨てられていた腐乱死体から殺人事件とあたりをつけた刑事は、特殊な液体で指紋を再生させる技術を持つ法医学者に助力を仰ぐ。物語は、臓器売買のために殺人を請け負う組織を追う刑事が、フランスから来た女法医学者とともに事件の真相を暴いていく過程を描く。被害者は中国南部出身者ばかり。さらに詳しく検分すると、生きたまま臓器を抜かれ、そののちに死亡している。人間の命を残虐かつ冷酷かつシステマティックな方法でカネに変える非情な男たちの “仕事感覚” が不気味で不快だった。一方で、相手は警官に対しても平気で発砲してくるような凶暴な悪党であるにもかかわらず、女学者は多忙なスケジュールを縫って捜査に協力するだけでなく積極的に危険に飛び込んでいく。拉致実行犯の男が母親思いなのは、皮肉が利いていた。

肝臓を摘出された死体から、臓器売買組織の存在に気づいた刑事・ジノは、法医学者・アリスの見解に従って希少な血液型の女ばかりが狙われていると知る。ジノは人材派遣会社をガサ入れする。

組織は次のターゲットを狙っている。注文に応えるために胎盤や心臓まで手に入れようとする。そしてアリスの通訳を務める女の夫が臓器摘出の実行犯だったことから、ジノの姪の友人がターゲットにされる。また拉致に失敗しかけた男に対しては制裁が加えられる。このあたり、金持ちは貧乏人の命さえ買うことができるという格差社会の現実がリアルに再現されていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ただ、謎を解くとまた別の謎が現れるというようなミステリー仕立てにはなっておらず、意外と構成が単純なのが期待外れ。組織の人間関係を詳しく説明せず場面だけで彼らのおかれた立場を想像させる手法は洗練されているが、編集上の工夫といえばそれくらい。一応伏線とその回収はあるが、スリリングな緊張感もない。映像のクオリティは非常に高く、ソウルの夜景の美さと繁栄から取り残された地域に住む人々の落差など印象に残るショットも少なからずあっただけに、もっとひねりがほしかった。

監督     ドゥニ・デルクール
出演     ユ・ヨンソク/オルガ・キュリレンコ/イェ・ジウォン/チェ・ムソン/パク・ソイ
ナンバー     89
オススメ度     ★★*


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