こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ニューオーダー

厳重に警備されているはずなのに、見知らぬ風体の男女が忍び込んでいる。信頼していた使用人が彼らに通じている。反抗すると容赦なく発砲される。物語は、格差社会に起きた民衆革命の顛末を描く。標的にされるのは身なりのいい白人だけ、原住民や混血の貧困層は長年搾取されてきた怒りを爆発させ、この時とばかりに狼藉の限りを働く。町は武装集団に支配され通行人から金目の物を奪ったうえ、人質になりそうな者は拘束されていく。ついに立ち上がった下層階級の人々、だがきちんと組織されていない彼らはひと通り破壊と略奪が済めば熱が冷めていく。そしてこの時とばかりに武装集団がのさばりだす。自由と公平を求めた革命のはずなのに、結局以前より状況が悪化する過程は、未成熟な民主主義国がはまる陥穽を強烈に皮肉っていた。

マリアンの結婚式に、市内のセレブが集まっている。かつて屋敷の使用人だったロランドが妻の手術費を無心に来たところ、マリアンは彼の妻を心配して病院に連れて行こうとする。

屋敷が占拠される前にクルマを出したマリアンだったが、街はあらゆるところで放火され、道路には死体や瓦礫が放置されている。なんとかロランドの家までたどり着くが、押し入ってきた武装集団に金持ちの娘だと見抜かれてしまう。小銃を持ち、道路を封鎖し、怪しげなそぶりを見せる者には発砲する。騒乱に乗じて政権を奪おうとする反乱軍なのだろう、だが兵士たちの士気は低くギャングと大差ない。このあたり、民衆の敵というレッテルを貼られた階層が状況を理解できないまま運命のどん底まで突き落とされていく描写はリアルで、通信が途絶えた環境で孤立した人間はいかに無力であるかを再現する。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

マリアンは動画を撮られて家族には身代金が要求されるが、裏切りと嘘に満ちた世界では誰を信じていいのかわからない。武器という圧倒的な暴力の前では誰もが無力、混乱の中で生き残るには自ら判断し行動する勇気と、大いなる幸運が必要であると、この救いのない悲劇は教えてくれる。

監督     ミシェル・フランコ
出演     ネイアン・ゴンザレス・ノルビンド/ディエゴ・ボニータ/モニカ・デル・カルメン/フェルナンド・クアウトレ/エリヒオ・メレンデス
ナンバー     104
オススメ度     ★★★*


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オフィサー・アンド・スパイ

整列した兵士と柵越しに見つめる群衆の前で、軍帽を奪われ階級章をはがされ軍刀をへし折られる大尉。屈辱の中で無実を叫んでも誰も耳を貸さず、そのまま罪人として扱われる。彼に対する非情なまでの仕打ちが、宗教的偏見と売国奴への憎悪を象徴していた。物語は、19世紀末、スパイ容疑で流刑にされた将校の冤罪を晴らすために奔走する防諜機関部長の奮闘を描く。関係者は証拠がでっち上げと知っていた。前責任者は死んだ。ユダヤ人への反感から結審を急いだ。ところが、証拠とされた筆跡は明らかに容疑者のモノとは違う。部下は信頼できない。上官も蒸し返すなという。だが、ひとりの人生がかかっているうえ、己の正義まで曲げたくはない。事なかれ主義の中で主人公が孤立していく過程は、腐った組織を変えるには外部の強力な協力者が必要と訴える。

ドレフュス事件が冤罪と確信した情報部長のピカールは、独自に調査しつつ上官や大臣に再審の必要性を説く。誰も首を縦に振らず、逆にピカールは監視対象にされてしまう。

ピカール自身も反ユダヤ主義者、それでもドレフュスに濡れ衣を着せた本当の裏切り者が放置されたままなのが許せない。そして調べれば調べるほど有罪の根拠が崩れていく。にもかかわらず、真実の追求よりもキャリアに瑕がつくのを恐れた将軍たちはもみ消しの指示しか出さない。なんとか出版社や作家にコネをつけ信頼を得たピカールは、新聞を通じて論戦を張る。このあたり、19世紀末ですでに言論の自由を確立させていたフランスという国のデモクラシーの奥深さがうかがえる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

一方で、ナチス時代のドイツのような反ユダヤ主義が吹き荒れた事実は、フランス人にとっての黒歴史だろう。その後、ピカールと支援者のおかげで「パピヨン」で知られた孤島から戻り、名誉を回復させるドレフュス。彼らが特別な感情でお互いを理解し合うなどという安っぽい結末には向かわず、ピカールはあれとこれとは別といったそっけない対応をする。2人を英雄に祭り上げない姿勢に好感が持てた。

監督     ロマン・ポランスキー
出演     ジャン・デュジャルダン/ルイ・ガレル/エマニュエル・セニエ/グレゴリー・ガドゥボワ/メルビル・プポー/マチュー・アマルリック
ナンバー     101
オススメ度     ★★★★


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戦争と女の顔

侵攻してきた敵は退けた。瓦礫も片付け死者も弔った。だが、その後も人生は続く。心に負った深い傷を抱えたままで。物語は、傷痍軍人病棟に勤務する看護師と、彼女の友人の “戦後の日常” を描く。入院中の負傷兵たちは、治療が終わり退院する者もいれば四肢のいずれかを失ってリハビリを受ける者もいる。全身がマヒした男は家族に迷惑をかけたくないと尊厳死を望む。ヒロイン自身も予期せぬタイミングで意識を失う後遺症に煩わされている。そこに復員してきた、前線で一緒に戦った親友。彼女は妊娠できない体になっている。それでも子供が欲しいという。そんな彼女の事情を知らず一方的に好意を寄せる若者。共産党幹部の子息なのだろう、激戦地なのに無傷で残っている広大な邸宅と贅沢な暮らしをする両親が、戦争でうまく立ち回った者と民衆の格差を浮き彫りしていた。

狭い共同アパートで幼子と2人で暮らすイーヤの元をマーシャが訪ねてくる。預かっていた子供を死なせたことから、イーヤはマーシャの代理で出産することに同意する。

イーヤもマーシャも幼子の喪失を特に悲しんでいるわけではない。数年に渡る激戦で見聞した数えられない死がイーヤを無感情にしてしまったのか。幼子の母であるマーシャはイーヤを責めないが、代わりの子の出産をイーヤに望む。病院長に妊娠させてもらえと持ち掛け、ベッドまで用意するのだ。病院長は渋々応じるが、強制されたイーヤとの行為に表情は暗い。このシーンは、性暴力は一方的に女が被害者であるという偏見を避け、女から男に対する強制性交も珍しくないと訴える。これは戦時下という異常事態にだけ起こっていることではないはずだ。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

街でナンパしてきたサーシャはさまざまな物資をマーシャに貢いで関心を引き、ふたりは付き合い始める。すっかりのぼせ上ったサーシャは、マーシャを結婚相手として両親に紹介する。そこで明らかになるマーシャの真実。理想など何の役にも立たない戦争の現実が、1発の銃弾も飛び交うことなく見事に再現されていた。

監督     カンテミール・バラーゴフ
出演     ヴィクトリア・ミロシニチェンコ/ヴァシリサ・ペレリギナ/アンドレイ・バイコフ/イーゴリ・シローコフ
ナンバー     77
オススメ度     ★★★★


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ウォーハント 魔界戦線

吊るされた敵の死体は血が抜かれていた。生き残りは言葉を失っていた。奇妙な風車小屋では美女が湯浴みしていた。まっすぐに進んだはずなのに元の場所に戻っていた。物語は、敵地に墜落した輸送機の機密文章を回収に向かった小隊が魔女の犠牲になっていく過程を描く。永遠の命を手に入れる方法が記された古文書は実在した。それを手に入れようとした敵は全滅した。自分たちも同じ運命をたどるかもしれない。恐怖におののきながら正体不明の女にひとりまたひとりと兵士たちが狩られていく。昼なお暗い深い森、カラスが不気味な姿を見せる。夜は漆黒の闇、見張りに立ってもほとんど何も見えない。そんな状況で兵士たちは正気を失い、命を落としていく。ただ、圧倒的に光量不足の映像は、中身のなさを隠しているとしか思えなかった。

1945年ドイツ、米軍のブリューワー軍曹が率いる救出部隊にウォルシュが加わる。彼は密命を帯びていて、他の隊員とは距離を置いている。その後、哨戒に出たラッカーは美女と出会う。

森はまだドイツ軍支配地域。小隊は当然ドイツ軍の襲撃をうける。下生えや倒木に足を取られそうになりながらも応戦し、ドイツ軍を制圧するが、その交戦シーンは緊迫感に乏しく、カメラワークも凡庸。現代の作品とは思えないほどの安っぽい銃撃戦だ。さらに進むと魔女とその侍女と思しき女が彼らを待ち伏せている。時に数十羽のカラスに姿を変え森の中を自在に移動するが、なんのひねりもない変身ぶり。捕まえた野ブタを丸焼きにして食べるシーンだけは衝撃的だったが。。。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

コンパスが効かない森の中、特殊な計測器で風車小屋の位置を割り出したウォルシュは、彼に命令を下したジョンソン少佐と共に突入する。彼らはその地下で魔女たちとバトルを繰り広げるのだが、松明のもとで繰り広げられる格闘はよく目を凝らしても何が起きているのかわからない。まともな映像作家ならひとつくらい伏線を張ってこのクライマックスで回収するはずだが、そんな気の利いたことも起こらなかった。

監督     マウロ・ボレッリ
出演     ミッキー・ローク/ロバート・ネッパー/ジャクソン・ラスボーン
ナンバー     97
オススメ度     ★★


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http://war-hunt.com/

帰らない日曜日

3家族が集ったピクニック、夫たちは社交的に振舞おうとするが、妻たちはどこか沈みがち。1人だけいる娘も上機嫌とは程遠く、胸中を見透かされないようにサングラスで目を隠している。そんな、若い男の不在が深い哀しみを象徴していた。物語は、成功した女流作家の遠い日の回想を描く。孤児院で育てられ大人になった。メイドとして上流階級の屋敷に仕えた。そこで経験した身分違いの恋。やさしかった彼は世界の広さを教えてくれた。彼のおかげで人間が持つ豊かな感情を知った。そして何よりも、愛し愛されお互いの肉体をむさぼる喜びも教えてくれた。知らせを聞いたヒロインが水を飲み深呼吸をして表情を整えるシーンは、驚きや悲しみ以上に “秘密を守らなければと” 計算し、“しっかりしなければ” と奮い立たせる心境の変化をリアルに再現していた。

日曜日、休暇をもらったジェーンは近所の富豪の息子・ポールに誘われ、彼が住む屋敷を訪れる。密会を楽しんだ後、ポールはピクニックに出かけていくが、彼にはエマという婚約者がいた。

よく晴れた早春の午前中、ピクニック出席者の会話は弾まない。唯一の生き残り男子であるポールも、本当は欠席したいのだが、親たちに気遣って会場に向かう。あえてジェーンと時間をつぶして遅刻するのも、親たちとつらい思い出を共有することに疲れたからだろう。治りきっていない傷をなめ合う会食、息子に先立たれた親たちには必要でもポールにはあまり居心地がよくない。屋敷の夫人がジェーンに、失うものがなければ喪失感を味わうこともないという意味の言葉を放つ。身寄りのないジェーンに対してかなり無作法ではあるが、そこには息子を戦争に奪われた母親の正直な気持ちが凝縮されていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ジェーンは裸のままポールの屋敷を徘徊する。高級な調度品が飾られた重厚な階段、奥には壁一面が本で埋め尽くされた部屋がある。無産階級のジェーンは、富裕層に蓄積された膨大な教養に圧倒される。知識と情報の差こそが、格差の源泉なのだ。

監督     エバ・ユッソン
出演     オデッサ・ヤング/ジョシュ・オコナー/ショペ・ディリス/グレンダ・ジャクソン/オリビア・コールマン/コリン・ファース
ナンバー     99
オススメ度     ★★★


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https://movies.shochiku.co.jp/sunday/

犬王

激しくかき鳴らした琵琶の熱気を帯びた音色とともに絶叫する様は、エレキギターを振り回すロックスターのよう。ステージを立体的に使ったダンスは、体操、ワイヤーアクション、ブレイキンを融合させたアクロバティックな振り付け。物語は、新進の琵琶法師が異形の踊り手とコラボして戦場に散った亡霊たちを慰める姿を描く。南北朝の動乱期、都の人々は盲目の楽師の語りに飽きていた。様式美に走った優雅な舞に退屈していた。斬新な娯楽に飢えていた彼らは、哀切を帯びた弾き語りや、極められたわびさびよりも、もっと直接魂を鷲づかみされるような強烈な体験を欲していた。それは誰もが参加できる一体感のあるパフォーマンス。既成の価値観に抗い感情を全身で表現するシーンは、虐げられた人々の想念が凝縮されていた。

失明して琵琶法師に弟子入りした友魚は都で修行中、ひょうたんの仮面をかぶった男と出会い意気投合。彼は能楽師の息子で犬王と名乗り、友魚とのセッションは人々に大いに受け入れられる。

盲目の友魚はまだ生きる手段が残されている。だが、ひょうたんの男は生まれた時から両親に疎んじられ、残飯で空腹を満たしていた。顔を見せず異常に長い右手を持ち、一方で受け継いだ才能は前例のない圧倒的な身体表現を可能にする。この2人が橋の上や河原で開くストリートライブは人々を熱狂に巻き込み、さらに、清水の舞台ではプロジェクションマッピング風の仕掛けまで見せる。現代風に翻訳された彼らの見世物は、アニメならではの目くるめく体験だった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

将軍に招かれた2人はそこでも圧巻の演目で大絶賛を受ける。ところが、2人の人気を恐れた将軍は活動を禁じる。己の芸だけで社会の底辺から這い上がってきた2人の無念は、壇ノ浦に消えた平家の武者たちとつながっているのだろうか。ただ、躍動感あふれる映像は和風テイストが濃い分新鮮だったが、歌や音楽とのミスマッチがあまり機能せず、途中から室町時代が舞台とは感じなくなった。あと、草薙剣はどうなったの?

監督     湯浅政明
出演     アヴちゃん/森山未來/柄本佑/津田健次郎/松重豊
ナンバー     98
オススメ度     ★★*


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https://inuoh-anime.com/

トップガン マーヴェリック

狭いコックピットで操縦桿を握るパイロットの背景が空に浮かぶ雲から一転して荒涼とした大地に変わる。通常体勢から背面飛行に切り替わるその素早さに戦闘機の機動性が凝縮され、平衡感覚がおかしくなりそう。度胸もテクニックも不器用な生き方もほとんど変っていない主人公に思わず懐かしさを覚えた。物語は、伝説のパイロットが教官として親子ほど年の離れた後輩を指導・指揮する姿を描く。コストがかかり人命も危険にさらす戦闘爆撃機はその役目をドローンに奪われようとしている。もはや20世紀の遺物のような存在だが、有力な後ろ盾のおかげで、限界に挑戦し続ける彼を誰も止めることはできない。組織での出世競争には敗れても他者の追随を許さない技能を持っていれば、活躍のチャンスは必ず来るとこの作品は訴える。

核施設爆破部隊の訓練を任されたマーヴェリックは、集められたパイロットの中に、かつて死なせた相棒の息子・ルースターの存在を知る。ルースターはことあるごとにマーヴェリックに突っかかる。

我こそは最優秀と自信満々の若者たちはマーヴェリックに対してもそれほど敬意を示さない。ところが戦闘訓練でマーヴェリックの圧倒的な腕前を見せられて、ひとりまたひとりと罰ゲームを課されていく。うぬぼれた若造がプライドをへし折られていく過程は痛快だが、マーヴェリックもまたかつて鼻持ちならない “オレ様” 的存在だった。そのあたり、エリート候補生のメンタルは時代が変わっても大きな差はない。傲慢な訓練性が負けることで謙虚さを学んでいく。彼らの成長に寄り添うマーヴェリックもまた少しだけ大人になっていたのには時の流れを感じた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

4機編成の攻撃隊リーダーとなったマーヴェリックは、先陣を切って敵地に乗り込む。脱出時には気を失うほどの重力にさらされる上に反撃も食らう。そして、人は若い方がいい、機体は新しい方が強いという常識に抗い、マーヴェリックは己の信念を貫く。それは、ハリウッドのトップを走り続けるトム・クルーズの矜持のようにも思えた。

監督     ジョセフ・コジンスキー
出演     トム・クルーズ/マイルズ・テラー/ジェニファー・コネリー/ジョン・ハム/グレン・パウエル/ルイス・プルマン/チャールズ・パーネル/モニカ・バルバロ/エド・ハリス/バル・キルマー
ナンバー     96
オススメ度     ★★★*


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https://topgunmovie.jp/