こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

戦争と女の顔

侵攻してきた敵は退けた。瓦礫も片付け死者も弔った。だが、その後も人生は続く。心に負った深い傷を抱えたままで。物語は、傷痍軍人病棟に勤務する看護師と、彼女の友人の “戦後の日常” を描く。入院中の負傷兵たちは、治療が終わり退院する者もいれば四肢のいずれかを失ってリハビリを受ける者もいる。全身がマヒした男は家族に迷惑をかけたくないと尊厳死を望む。ヒロイン自身も予期せぬタイミングで意識を失う後遺症に煩わされている。そこに復員してきた、前線で一緒に戦った親友。彼女は妊娠できない体になっている。それでも子供が欲しいという。そんな彼女の事情を知らず一方的に好意を寄せる若者。共産党幹部の子息なのだろう、激戦地なのに無傷で残っている広大な邸宅と贅沢な暮らしをする両親が、戦争でうまく立ち回った者と民衆の格差を浮き彫りしていた。

狭い共同アパートで幼子と2人で暮らすイーヤの元をマーシャが訪ねてくる。預かっていた子供を死なせたことから、イーヤはマーシャの代理で出産することに同意する。

イーヤもマーシャも幼子の喪失を特に悲しんでいるわけではない。数年に渡る激戦で見聞した数えられない死がイーヤを無感情にしてしまったのか。幼子の母であるマーシャはイーヤを責めないが、代わりの子の出産をイーヤに望む。病院長に妊娠させてもらえと持ち掛け、ベッドまで用意するのだ。病院長は渋々応じるが、強制されたイーヤとの行為に表情は暗い。このシーンは、性暴力は一方的に女が被害者であるという偏見を避け、女から男に対する強制性交も珍しくないと訴える。これは戦時下という異常事態にだけ起こっていることではないはずだ。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

街でナンパしてきたサーシャはさまざまな物資をマーシャに貢いで関心を引き、ふたりは付き合い始める。すっかりのぼせ上ったサーシャは、マーシャを結婚相手として両親に紹介する。そこで明らかになるマーシャの真実。理想など何の役にも立たない戦争の現実が、1発の銃弾も飛び交うことなく見事に再現されていた。

監督     カンテミール・バラーゴフ
出演     ヴィクトリア・ミロシニチェンコ/ヴァシリサ・ペレリギナ/アンドレイ・バイコフ/イーゴリ・シローコフ
ナンバー     77
オススメ度     ★★★★


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