こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

犯罪都市 THE ROUNDUP

殴るというよりはぶちのめす。投げるというよりは床にたたきつける。蹴るというよりは踏み潰す。手首をひねるというよりは関節ごと砕く。圧倒的な体格から繰り出される格闘術の数々は重量感に満ち、彼に歯向かった悪党たちの肉体の痛みととんでもない化け物を怒らせてしまったという後悔がリアルに再現される。物語は、東南アジアをまたにかけて暗躍する誘拐犯と彼を追う刑事の激闘を追う。身代金を受け取ったら人質を殺してしまう悪党は神出鬼没、恐ろしく頭が切れ広い人脈を持つだけでなく、格闘技や刃物の扱いに長け殺し屋集団を返り討ちにする。そんな男を追う刑事は後手後手に回るが、欲に目がくらんだところに付け込んで追い込んでいく。恐怖をまったく感じず、危険を楽しむかのように悪行を重ねる男をソン・ソックがクールに演じていた。

ベトナム出張中、迷宮入りの誘拐事件を解決したマは、犯人のカンが人質の父である会長を殺しに韓国に戻ったと知る。カンは会長を拉致し、その妻に身代金を要求する。

気に食わない奴には躊躇なく鉈を振り下ろすカン。喧嘩になると抜群のスピードと身のこなしで相手を血祭りにあげていく。密航船で帰国すると盗難車で街中に溶け込む術も心得ている。ヤクザだが能力は超一流のスパイ並み、マたち警察の何歩も先手を行く知略には舌を巻く。誰にもバレずに会長に接近し拉致する手際は、指名手配中にこんなことができるわけがないと思わせるほど見事だった。下手に偽装工作などせず堂々としていた方が怪しまれずに済むと、カンの行動は教えてくれる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

自分の能力や運には絶対の自信を持っているのか、カンは身代金入りスーツケースを奪うとバスで逃走を図る。検問所でやっと追いついたマは、カンに1対1の勝負を挑む。バスの車内という狭い空間で繰り広げられる格闘シーンは、シートや手すり・つり革といった小道具を存分に生かした、肉が歪み骨がきしむ映像。極限まで鍛えた者だけが耐えうる衝撃の数々はプロレスのデスマッチを見ているようだった。

監督     イ・サンヨン
出演     マ・ドンソク/ソン・ソック/チェ・グィファ/ファ パク・チファン/ホ・ドンウォン/ハジュン/チョン・ジェグァン
ナンバー     206
オススメ度     ★★★


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人生は二度とない

独身時代最後の旅は男だけで楽しみたい。それは、今までの人生を見つめ直す旅でもある。物語は、結婚式を控えた若者と彼の親友たちの3人が遠い異国をドライブするうちに、自分の心の底に眠っていた願望を再発見する過程を描く。ずっと先延ばしにしていた苦手なことにチャレンジしてみる。一歩踏み出せばまったく違った景色が見えてくる。それは、命の危険はないように配慮されているけれど、少し勇気が必要な体験。もう学生時代のころのように無邪気ではいられない。大人としての分別を持たなければならないことも分かっている。それでも失いたくない、若いころに抱いていた理想。いつしか日常に押し流され、こんなはずじゃなかったと思いながら本心に蓋をして過ごしてきた彼らが羽目を外す姿は刺激的だ。

カビール、アルジュン、イムラーンの3人は世界各地からバルセロナに集合、レンタカーでダイビングスポットを目指す。インストラクターのレイラにアルジュンは秋波を送る。

やり手金融マンのアルジュンは移動中も電話やリモートで打ち合わせに忙しい。そんな彼のスマホをイムラーンは捨て、旅に専念するように仕向ける。仕事に追われる日々は本当に幸せなのか、もっと大切なものがあるのではないか。彼らと時間を共にするうちに、アルジュンは少しずつ若者らしい溌剌さを取り戻していく。一方で、カビールの嫉妬深い婚約者がいちいち彼を拘束しようとして旅程に介入してくる。このあたり、男の気持ちを理解しない女だとウザく感じていたが、結婚するきっかけとなった事件が再現されると、むしろ彼女の不安がリアルで共感を覚えた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

その後、トマト祭り、スカイダイビング、牛追い祭りと、彼らはちょっとスリリングなイベントに参加しては、もう今後は得られないようなアドレナリンの噴出を体験する。そして、イムラーンが最も避けてきたけれどこれ以上は逃げられない事態に直面する。心の声を抑圧する生活を離れ、もう一度己の人生に必要なものは何かと問うことの大切さをこの作品は訴える。

監督     ゾーヤー・アクタル
出演     リティク・ローシャン/アバイ・デーオール/ファルハーン・アクタル/カトリーナ・カイフ/カルキ・ケクラン/ナスィールッディーン・シャー
ナンバー     205
オススメ度     ★★★*


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警官の血

不正をしているのはわかっている。裏社会とつるんでいるのもバレている。しかし決定的な証拠をつかんでいるわけではない。物語は、抜群の検挙率を誇るが悪い噂の絶えない刑事を内偵する若い刑事の葛藤を描く。ベンツにグッチに高級アパート、刑事の給料では賄えないような暮らしをしている。捜査のための経費があると言い訳をしている。一方で、ネタを取るために犯罪者を泳がして、大物を狙っているふりをするのにも抜かりがない。さまざまな顔を持ち、真実は闇の奥。やがて若い刑事は己の正義に自信が持てなくなっていく。そして明らかになっていく、父の死の真相と警察内部にはびこる負の連鎖。深みにはまればはまるほどいったい誰を追っているのかわからなくなっていく過程は、何も信じられない主人公の混迷をリアルに体感させてくれる。

パク隊長の配下となったミンジェは運転手として一緒に捜査に駆けずり回る日々。時に強引で違法な捜査を続けるパクにミンジェは目を光らせるが、パクはなかなか尻尾をつかませない。

不名誉なレッテルを張られたまま殉職した父を持つミンジェは警察内部では潔癖を貫き、時に同僚に不利になる証言も厭わない。そんな彼の経歴も性格も知り尽くしたパクは、手のひらの上で転がすかのようにミンジェを扱っている。それでもミンジェは少しずつパクの行動パターンを分析しカネの流れをつかむ。さらに麻薬王のカジノや秘密工場を急襲するときに重要な役割を振り当てられるなど、ミンジェはパクの信頼を得ていく。だが、ミンジェはパクが騙されたふりをして逆に自分を見張っているような気がしてならない。片時も心をほぐせないミンジェのプレッシャーが息をのむほどの緊迫感となってスクリーンからあふれていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ただ、断片を集めながら大きな謎を解くミステリーの要素は乏しく、警察内部のさまざまな思惑が交錯するばかりで混迷は増すばかり。職務に対する温度差がそれぞれ違うあたりに人間味を感じるが、まとまりのない展開には興味がそがれた。

監督     イ・ギュマン
出演     チョ・ジヌン/チェ・ウシク/パク・ヒスン/クォン・ユル/パク・ミョンフン
ナンバー     204
オススメ度     ★★


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https://klockworx-asia.com/policeman/

貞子DX

呪いによる死なんか存在しない。思い込みが偶然と一致しただけ。科学を信奉する彼女はそう言い切って頻発する超常現象を解明しようとする。物語は、20年ぶりに息を吹き返した都市伝説と対峙する女子大生の奮闘を描く。葬られたはずのビデオがネットで売られている。だが、それを再生するデッキはもうほとんど手に入らない。限られた人だけがその内容を確認するが、なぜか死ぬまでの時間が大幅に短縮されている。テクノロジーの進化に合わせて呪いも進化したのか。だとしたら怨念のようなものではなく物理的な力を持っているのか。さまざまな仮説を立て、理論的にそのパターンを解明し対策を練る過程が、時の流れと共に変化した価値観の違いを感じさせる。そもそも女子高生はビデオ自体を知らないという事実には、貞子もお手上げなのだ。

不審死が相次ぐ中、文華はTVの検証番組で共演した霊媒師のケンシンから呪いのビデオをもらう。妹がそのビデオを見ると白昼白い服の男に追われる幻覚にとらわれるようになる。

イムリミットは24時間、それまでに解決策を見つけないと妹は死ぬ。文華はインチキ占い師・王司とともにビデオを分析する。すると彼らも白い服の人物が見えるようになる。それは貞子ではなく、どうやら心の中に浮かんだ親しい人物のようである。文華は、その症状の原因をウイルスと仮定、感染経路とウイルスの性質から拡散パターンを予想する。あほ丸出しの王司の大げさなリアクションには鼻白んだが、彼のアプローチを拒否し続ける文華の毅然とした態度は爽快だった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

やがて明らかになるケンシンンの正体と、迫りくる貞子との対決の瞬間。研究された貞子は文華たちに有効な手を打てない。これでいいのか、貞子。withコロナ時代ならぬwith貞子時代の到来。味わった屈辱と苦悩と恨みと怒りを晴らすために人間どもに復讐を誓ったはずなのに、もはや人間からは対症療法可能なウイルス扱いされてしまっている。もっと恐怖のどん底に突き落とすくらい暴れまわってほしかったのだが。。。

監督     木村ひさし
出演     小芝風花/川村壱馬/黒羽麻璃央/八木優希/渡辺裕之/西田尚美/池内博之
ナンバー     203
オススメ度     ★★*


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https://movies.kadokawa.co.jp/sadako-movie/

アムステルダム

戦争で体も心も傷ついたけれど、友情と自由を手に入れた。だが、そんな夢のような日々にもやがて終わる時が来る。物語は、殺人容疑者の濡れ衣を着せられた男2人が旧知の女の協力を得て、知恵と勇気と行動力で国際的な陰謀を食い止める過程を追う。空前の繁栄から不況のどん底に突き落とされた時代、経済再建を優先させようと全体主義を信奉する勢力が幅を利かせ始める。先人たちが命がけで勝ち取った権利を自分たちの世代が売り渡していいのか? 疑いを晴らすために人脈をたどるうちに、3人の男女は民主主義が危機に瀕していることを知る。スタイリッシュにまとめられた映像は一方でミステリアスな雰囲気をまとい、大戦直後の欧州の高揚と恐慌期の米国の生きづらさを対照的に描いていた。そして、ポピュリズムに陥った世界はほんの十数年で一変すると訴える。

第一次大戦中、同じ米軍部隊で戦ったバートとハロルドは、負傷して入院中に看護婦のヴァレリーと意気投合、戦後の一時期をアムステルダムで共に過ごす。

バートとハロルドの上官だった将軍の娘の暗殺犯とされた2人は独自調査を開始、トムという富豪の屋敷に軟禁されているヴァレリーと再会する。3人はアムステルダムで交わした誓いを復活させ、助け合いと協力を惜しまない。やがて彼らは将軍の真意を知り、遺志を継ぐ決意をする。このあたり次々と腹に一物抱えた登場人物が現れるが、存在感たっぷりの俳優たちが演じているおかげで上手に交通整理されている。洗練された演出はファシズムを想起させる暴力や血なまぐささとは一線を画し、複雑怪奇な展開をスピーディにまとめていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

さらに将軍と親交のあった退役将校・ギルを巻き込んだ3人は、米英スパイの援護を得てトムたちの計画阻止に動く。ただ、全体的にアクセントに乏しく、3人は自分たちに降りかかる危機を飄々と受け流しているように見える。もっと緊迫感を持たせるとか、危険を楽しむ余裕をコミカルに見せるとか、作品のカラーとなる視点を示してほしかった。

監督     デビッド・O・ラッセル
出演     クリスチャン・ベール/マーゴット・ロビー/ジョン・デビッド・ワシントン/クリス・ロック/アニヤ・テイラー=ジョイ/ゾーイ・サルダ/マイク・マイヤーズ/マイケル・シャノン/アンドレア・ライズボロー/テイラー・スウィフト/ ラミ・マレック/ロバート・デ・ニーロ
ナンバー     202
オススメ度     ★★*


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https://www.20thcenturystudios.jp/movies/amsterdam

窓辺にて

怒るべき時に自制が働いてしまううちに、怒り自体を感じなくなった。冷静に対処しているうちに悲しさにも鈍感になった。彼のやさしさは、いつしか相手にとって手ごたえのない無関心に思えてくる。物語は、妻の浮気にショックを受けなかったことがショックだったという男が、様々な人々とかかわるうちに己を見つめなおしていく過程を描く。いつもさわやかな笑顔で、敵を作らない。物腰は柔らかで、他人を退屈させない気遣いも持っている。友人の悩み事には真摯に耳を傾けるが、具体的なアドバイスはしない。そんな彼を中心に、男女数人の会話が長回しのショットで延々とつづられていく。そして彼らが取る行動は、日常の些細な出来事にもきっと何らかの意味があって、それらにきちんと向き合うか見なかったふりして素通りするかで人生は違ってくると訴える。

文学賞受賞会見で女子高生作家・留亜に呼び出された市川は、彼女のボーイフレンドを紹介される。そのボーイフレンドとバイクに2人乗りすると、市川はかつてない解放感を味わう。

市川の妻・紗衣は、担当している流行作家と不倫している。相手は本気だが紗衣は彼の気持ちを受け流している。市川は紗衣が密会帰りでも口には出さず、紗衣も市川が知っているのに気づいていて何もなかったように装う。夫婦としては終わっているのに、今の表面的な平穏を保つことを優先し、決定的な話はできるだけ先延ばししようという大人の配慮。もう修復できないとわかっていながらもお互いに優しさを見せるふたりの煮え切らない態度が夫婦として過ごした年月を物語っていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

友人の有坂夫婦に紗衣のことを話した市川は、有坂の妻・ゆきのに追い返される。ところがその後にゆきのは有坂の不倫について市川夫妻に相談に来る。さらに市川は留亜と彼女のボーイフレンドにも個別に相談されたりする。このあたりのごちゃごちゃした人間関係は、人はだれしも悩みを持っているが、それを誰かに打ち明けた段階でほとんどが解決するということを教えてくれる。

監督     今泉力哉
出演     稲垣吾郎/中村ゆり/玉城ティナ/若葉竜也/志田未来/佐々木詩音/松金よね子
ナンバー     160
オススメ度     ★★★*


↓公式サイト↓
https://madobenite.com/

アフター・ヤン

ずっと家族だと思って暮らしてきた。日常生活のあらゆる状況で頼りにしてきた。だが、彼は突然停止してしまった。物語は、修理不能になった人型ロボットの記憶をのぞいてしまった男の苦悩を描く。新品として買ったわけではなかった。なんらかのスパイウェアが仕込まれている可能性もある。本体の核となる部品をいじるともう元に戻せなくなるという。そして現れた謎の女。人間によって創造されたのに、いつしか人間の能力を凌駕してしまったモノたちに、「権利」はどこまで認められるべきなのか。規制しなければ人類は未曾有の危機に直面するのではないか。人間に似て非なる存在として作られ喜怒哀楽をプログラムされたマシーンや、コピーとして生まれた生物の哀しみが静謐なトーンの映像で表現されていた。

AIロボット・ヤンが起動しなくなる。ジェイクは修理店を回るが新品を薦められるばかり。研究者のもとに持ち込み、ヤンの心臓部にあたるメモリを取り出す決意をする。

メモリの中にあった自分たち家族の記録だけでなく、以前仕えていた女の情報にもアクセスするジェイク。そこにいた金髪の女が現実世界にいると知ったジェイクは彼女を探す。隣家の男がクローンを娘にしていることに嫌悪感を覚えていたジェイクは、金髪女が死んだ元の持ち主のクローンと知って少なからずショックを受ける。ロボットは受け入れてもクローンとは距離を置きたいジェイクの気持ちは、命の有無が関係しているのだろう。ロボットという無機物とクローンという有機物。あくまでロボットは機械と割り切っていたジェイクも、血が通い感情もあるクローンに対しては一応「人間」として節度を持って接している。頭では理解していても心がついてこないその矛盾をコリン・ファレルがリアルに再現していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

眼鏡型のディスプレイにヤンのメモリを再生する過程は、遥か宇宙の深淵を旅する宇宙船の視点のような神秘的な趣をまとう。ここで描かれた未来は、もはや人類が生態系の頂点ではないディストピアのようだった。

監督     コゴナダ
出演     コリン・ファレル/ジョディ・ターナー=スミス/ジャスティン・H・ミン/マレア・エマ・チャンドラウィジャヤ/ヘイリー・ルー・リチャードソン
ナンバー     200
オススメ度     ★★★*


↓公式サイト↓
https://www.after-yang.jp/