こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

となり町戦争

otello2007-02-20

となり町戦争


ポイント ★★*
DATE 06/12/20
THEATER 角川ヘラルド
監督 渡辺謙作
ナンバー 223
出演 江口洋介/原田知世/瑛太/岩松了
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


何気ない日常の延長で戦争が起きている。しかし、まったく生活には緊張感はない。ただ、日々広報に載る戦死者の数だけが現実となって主人公にのしかかる。映画は、非常事態なのに直接交戦地域に住んでいない住人の無関心、戦争なんか遠い国の話と決め込んでいる人々の無責任に鋭く切り込む。そして、自分の身の上に火の粉が降りかかって初めて真剣に考えるが、決定は民主的な手続きを踏んでいてそのときにはもう後戻りできない。反対の声を上げる面倒を厭ったため、いつの間にか戦争を受け入れてしまう主人公の心理がリアルだ。そう、気づいたときにはもう手遅れなのだ。


舞坂町は隣の森見町と戦争を始めるが、住人たちに実感はない。ある日、舞坂町民の北原の下に森見町の偵察指令が下る。やがて偵察だけではすまず、香西という職員と偽装結婚して森見町に潜伏することになる。


原田知世が演じる香西という役人が、任務のために感情を殺して本音を見せないところがよい。夫婦として同じアパートに暮らす北原が彼女と心を交わしてついに結ばれるが、それすら彼女に与えられた週に一度の業務だったというオチにはのけぞった。一見のどかな戦時下、香西の役人根性が染み付いた一貫した姿勢がユーモラスで、いくら住民サービスをうたっていても所詮役人は納税者を見下していることを鉄面皮のような表情を崩さないことで表現する。官と民、そこには越えがたい壁が歴然として聳え立つこと、そして官僚や政治家は住民のことより自分たちの人気や体面しか気にしていないことをわかりやすく訴える。


戦闘地区と非戦闘地区を区分しているため、一般住民の間に戦火が及ぶことはない。だからこそ血を流し人が死ぬことにリアリティを感じない。唯一北原の上司が、人間なんか簡単に死に生き残ったものもすぐに他人の死には慣れるということを、自らナイフを持つことで北原にわからせようとする。そこには実戦経験のあるものだけが持つ説得力があったのに、北原が香西に心変わりを促すという後日談がやたら長く、映画を冗長なものにしている。


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