こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

モーツァルトとクジラ

otello2007-02-21

モーツァルトとクジラ MOZART AND THE WHALE


ポイント ★★
DATE 07/2/17
THEATER シネスイッチ銀座
監督 ピーター・ネス
ナンバー 33
出演 ジョシュ・ハートネット/ラダ・ミッチェル/ゲイリー・コール/ジョン・キャロル・リンチ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


自分の頭の中のことに夢中になりだすと他のものが一切目に入らなくなる男と、自分の気持ちにうそをつけず他人の言葉もそのまま受け取ってしまう女。男は驚異的な数字に対する記憶力を、女は美しい感性を持っている。知的障害はまったくないのに、精神のバランスが悪いせいで感情をコントロールできないというアスベルガー症候群のふたり。介護なしで一人で暮らしていけるレベルの障害でも、やはり彼らがふたりきりになると危なっかしくて見ていられない。観客は彼らを手助けしたくてもできない。そのあたり、彼らの主観でストーリーを語るという設定に飛躍があり、アイデアが空回りしている。


精神に障害を抱えるドナルドは同病者のサークルを主催している。そのサークルにイザベルという美容師の美しい女が加入しふたりはたちまち恋に落ちる。やがて同棲、ドナルドは数学的才能を生かして大学で働き始めるが、些細なことでふたりの感情はぶつかり始める。


障害者に対する理解、自立支援などこの作品が訴えるテーマは重い。しかし、作品の視点が障害者側にあるために、彼らの行動がなかなか理解しづらい。突然の感情の高ぶりや注意力の喪失といった情動には、控えめにいっても感情移入することができず、もともと世界を見る尺度が違っている人間の視線で、別の方向に尺度が向いている人間を描くから非常にややこしい。ドナルドとイザベルには同じ名前の病名が冠されているが、症状に関してはまったく個性的。共通点は世間に理解されづらいということだけなのに、同類としてくくるところに無理がある。


不器用ながらお互いの気持ちを忖度しようとするふたり。確かにその姿は時に悲しくて切なく、一方において情熱的で美しい。それでも健常者の視点というものを残しておかないと、彼らの行動様式同様、一貫性のないものになってしまうのだ。


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