こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

流浪の月

帰る場所がない少女と誰にも言えない秘密を抱えた青年。他人の温もりに飢えたふたりは運命のように出会い、宿命のように引かれ合い、やがて純粋に相手を思う気持ちに昇華されていく。物語は、女児誘拐事件の被害者が15年後に加害者と再会したことから起こる悲劇を描く。彼がしたことは犯罪、だが彼女は救われていた。司法には理解されず、彼には罰だけが待っていた。せっかく平安を得てもネット社会が壊していく。それでも彼は世間の仕打ちを無抵抗に受け入れていく。まるでそれが背負わされた十字架であるかの如く。一方、大人になった彼女もまた抜け出せない罠にとらわれ苦悩を抱えている。青年の、少女にしか心を開けない強烈な劣等感と、それを隠すために身にまとった静謐の鎧が切なかった。しっとりと落ち着いた映像が彼らの哀しみをリアルに再現していた。

亮と婚約中の更紗は深夜営業のカフェで働いている文を見つける。束縛し暴力をふるう亮と破局した更紗は文のアパートの隣室に引っ越すが、更紗と文の過去は文の恋人にも知られてしまう。

周囲はみな更紗の事件を知っている。気を使ってくれてはいるが下劣な興味も隠さない。そんな彼女と文の仲がネット上で一気に拡散すると文の恋人は去り、図らずも更紗と文はふたりが幸せだったころの関係に戻る。そんな時、彼らの世界に闖入してきた別の少女。逃げ場を失った彼らが負のスパイラルに落ちていく。それでも心は繋がっている。人のうわさもすぐに止むと知っている。世間からの仕打ちが厳しいほどふたりがお互いへの思いを固めていく過程が、障害が多いほど愛は純度を増していくと訴える。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

更紗が文と暮らした日々が、美しい思い出として挿入される。いとこから性的DVを受けて逃げてきた更紗は文のやさしさに笑顔を取り戻し、文もまた更紗の変化に希望を見出すようになっていく。そして更紗にだけ明かされた文の真実。異性愛者同士の大人の男女カップルであっても、必ずセックスで結ばれる必要はないとこの作品は教えてくれる。

監督     李相日
出演     広瀬すず/松坂桃李/横浜流星/多部未華子/趣里/三浦貴大/白鳥玉季/増田光桜/内田也哉子/柄本明
ナンバー     87
オススメ度     ★★★


↓公式サイト↓
https://gaga.ne.jp/rurounotsuki/